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2008-11-08
第3作戦「円卓〜サイファー対ストルツ〜」
デトレフ・フレイジャー
ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊「ロト隊」隊長。
TACネームはストルツ。
当時の階級は少佐。
その容姿と実力を逆手に取り、軍に自分を利用させた男。
天然ボケを武器に一代で民衆の心を掴んだフレイジャー議員の末子だが、兄たちとは違って「私は父のようにはならない」が口癖だった。
戦争に対する考え方と、かつての友人であるラリーが義両親の心配をよそに金のために傭兵として空を飛んでいたという事実から、傭兵を非常に嫌っている。
ふとした偶然でサイファーの正体を知り、紆余曲折の末に自らの意思で捕虜となり、陰で彼女を支え続けた。
戦後は他のベルカ出身の「エインフェリアの会」会員同様、予備役になり、ディンズマルク大学に講師として就職。
現在は同大学で、歴史学の教授になっている。
ミラーフリスト殿下への忠誠心は極めて強く、エインフェリアの会の事実上の管制官役を任されている。
2005年、ディンスマルク大学。
「殿下ほどではないが、君はいい目をしているな。
マタキチ・アクトクとか言う奴とは大違いだ」
“彼をご存知なんですか?”
「一足先に、サイファー……、殿下について知っていることはないかと取材しに来たよ。
即行で門前払いしたがね。
殴りたくなるのを必死で我慢してやったよ。
金だけのために、ゴシップを書き続ける悪党の取材なんか誰が受けるものか」
“我々の間でも、評判は最悪ですから”
「やはりな……。
話を本題に移そう。
あの頃の私は誇りに満ちていた。
戦争とは、互いの国の人間同士の誇りを賭けた戦いだ。
だから、私は金以外に背負うものがない傭兵が嫌いだ。
たとえ、人としては素晴らしいとしても。
旧友が傭兵になったのも大きいがな」
“ラリー・フォルクのことですね?”
「そうだ。
20年前ぐらい前になるかな、奴は、御義両親の周囲に群がる財政界と軍の極右派への反発からを家を飛び出した。
奴の家の名誉のために言っておくが、御義両親はむしろ穏健派だった」
“彼がウスティオ側についたと知った際、相当怒り狂ったそうですが?”
「……おじさんたちを散々心配させ、挙句の果てに祖国に牙を剥いたんだ。
私が怒り狂ったのも当然だ」
“それが何故、捕虜に?”
「少し、長くなるぞ?」
第3作戦「円卓〜サイファー対ストルツ〜」
1995年、4月17日、B7R。
通称、『円卓』。
ベルカ戦争の発端となった大量の鉱山資源が眠る山脈。
薄い雲が通り過ぎ、ウスティオ特有の涼風が吹き荒れていた。
鉱山資源が生み出す磁場のせいで、円卓一帯は電波障害が頻発する。
ガルム隊の二機が、そこを飛んでいた。
すぐ隣を飛ぶピクシーに、未莱は心配そうに話しかけた。
「あご、まだ痛い?」
「……イーグルアイのアッパーが綺麗に決まったからな。帰ったらもう一回診てもらわんと」
昨日の朝、未莱が寝ぼけて部屋を出たのが原因で、ピクシーは袋叩きにされたのだ。
理由は簡単。
未莱はその時、全裸だったから。
たまたま近くを通りかかっていたイーグルアイがそれを見てしまい、絶叫。
駆けつけたゴリアス大佐やクロウ隊、ヴァイパー・キッチン隊のみんなまで見てしまい、そろってピクシーが未莱に手を出したと誤解。
結果、ピクシーは袋叩きの憂き目に遭う。
その後、未莱が必死で事情を説明したため疑いは晴れたものの、抱き枕代わりにしたのがネックとなり、単独での円卓強行偵察を厳命されたのである。
もっとも、すぐに未莱が突っかかってきたため、未莱も強行偵察に参加することとなった。
「……やっぱ、下着くらいは着せた方が良かったな」
「ヘう……」
自分の方にも原因があるため、未莱はへこんだ。
まだ、敵機の反応は無い。
そして数十秒後、イーグルアイが敵機をレーダーで捕捉した。
「イーグルアイよりガルム隊、敵部隊の反応を確認。撤収許可が出るまで応戦せよ」
『了解』
円卓にミサイル雲が出始めた頃、一機の攻撃機が戦闘空域に近づきつつあった。
攻撃機兼高等練習機として開発されたGR Mk.1の高出力バージョン、ジャギュア・インターナショナルである。
この機体は練習機としては高価なため、ベルカ空軍で訓練飛行時に乗れるのは、一握りのエリートやエースのみなのだ。
配備事情の都合上、特定のエース部隊の専用カラーに塗装されるだけでなく、戦闘機の機動が出来るように改造されることもある。
今飛んでいるのは、灰色の胴体に赤い機首、ロト隊隊長用機。
ウスティオの涼風を切り裂き、ジャギュア・インターナショナルが飛んでいる。
「単独訓練中に敵部隊がB7Rに進入するとはな。敵機数は、2機。……ラリーとアジャイル・イーグルか!」
たまたま部隊の乗機が全機定期点検中の上、部下たちが休暇を利用して基地から離れていたため、円卓で単独訓練飛行と洒落込んだのである。
『赤いツバメ』、デトレフ・フレイジャーは、神にホンの少しだけ感謝した。
旧き友と、その相棒を撃ち落す機会を与えてくれたことに。
「気まぐれとは言え、実弾を積んでいて正解だったな。待っていろ、ラリー。叩き落して小父さんと小母さんのところに突き出してやる!」
それから数分後、ガルム隊が巡回中の敵部隊を壊滅させ、偵察任務に戻ろうとした矢先であった。
イーグルアイが、敵機の反応を捉えたのである。
司令部からの撤収許可はまだ出ていない。
イーグルアイはそのまま声を出す。
「イーグルアイよりガルム隊、敵機が接近中。数は一機」
『一機だけ!?』
「まだ撤収許可は出ていない。応戦せよ」
ピクシーは「まだかよ」といった表情で、未莱は初陣の時と同じ冷たい表情で、イーグルアイの指令を聞く。
幸い、両方とも乗機の銃弾とミサイルは十分残っていた。
徐々に近づく、敵機のマークに一度だけ視線を移し、同時に復唱する。
『了解』
「サイファー、もしピクシーが落とされたら、迷わず……」
「ネガティブ。それ以上言ったら先にあなたを落とすわよ、イーグルアイ」
殺気のこもった声でイーグルアイを黙らせる未莱。
イーグルアイは、未莱の殺気に硬直する。
2回しか実戦を経験していない新人が放つ物とは思えない殺気。
そして、ピクシーはそのやり取りを聞いて笑い出した。
「ブハハハハハ! 相棒の逆鱗に触れてやんの」
「薄情者のイーグルアイなんか放っておいて、近づいてる一機に集中するわよ」
「ガルム2了解。それでこそ相棒だ」
ガルム隊の二機は加速。
二機とも速度をマッハ2にする。
しばらくして、二人は機影を確認した。
「アレはジャギュアじゃないか」
「練習機でこの円卓に来るなんて、物好きもいたものね」
思わず拍子抜けした二人だが、ミサイルアラートで現実に引き戻された。
ジャギュア・インターナショナルがXLAAを発射したのである。
危うくヘッドショットになる寸前に、二人は急下降し、XLAAを回避。
円卓に、ミサイル雲が新たに二本書き起こされた。
「練習機がなんでXLAA積んでんだよ!」
「積めるように改造してあるだけだ」
ピクシーの愚痴に、未莱ではなくジャギュアのパイロットが答える。
ピクシーはパイロットの声に聞き覚えがあった。
小中高、12年間ずっと聞き続け、実家を飛び出したあの日から聞かなかった腐れ縁のあの男の声。
「その声、デトレフか!?」
「久しぶりだな、ラリー!!」
改造の結果、攻撃機離れした機動を見せるジャギュア・インターナショナル。
その機動に焦りつつも、ピクシーはF-15を急旋回させる。
その隙を突き、デトレフは機銃のトリガーを引こうとして……、キャノピーに亀裂が走り動揺した。
「何だと!?」
「ち、狙いが甘かったわ」
デトレフが、ピクシーに気をとられている間に、未莱が真横からコックピットに狙いを定めて機銃を発射したのだ。
幸か不幸か、キャノピー正面を弾が掠っただけであったが。
今度こそは、と再びロックオンした直後、イーグルアイからの通信が入った。
「イーグルアイよりガルム隊、司令部から撤退許可が出た。帰還せよ。繰り返す、帰還せよ」
やっと出た撤退許可に、ピクシーは安堵しながら、未莱は少し不満げに機体をヴァレー空軍基地の方に向け、アフターバーナーを吹かした。
無論、それを見たデトレフは怒号を上げる。
「待て!」
「待てといわれて待つバカはいないわよ」
「そういうことだ。じゃあな、親父と御袋によろしく言っといてくれや」
マッハ2以上の速度を出し、ガルム隊はあっさりと円卓を後にする。
戦闘機レベルの機動は出来るように改造されてはいるが、あくまでも「それだけ」に過ぎず、F-15以上の速度は出せない。
一方、悔しさで歯軋りしているデトレフに、基地から通信が入った。
「おのれ、あのアジャイル・イーグルめ!」
「ストルツ、敵部隊は撤退した。帰還せよ。ところで、機体にどこか異常はあるか?」
「キャノピーに亀裂が生じたが、それ以外の異常は無い。帰還する。……しかし、私を残していきなり撤退するとは……。連合軍め、あの2機をルアー代わりにしたか」
ヴァレー空軍基地、医務室前の廊下。
据え置きのソファーに座り、ピクシーが出てくるのを待ちながら、連合軍本部からの通信内容を思い出した未莱は憤慨していた。
「私が同行するのに、ゴリアス司令とイーグルアイが最後まで渋った理由が分かったわ……。まさか囮役だったとわね」
廊下を通る者はいない。
未莱の愚痴が廊下で小さく反響する。
ぶつくさ言っていると、ちょうどピクシーが出てきた。
機嫌が悪そうな相棒の姿が気になったのか、ピクシーは何があったのかを問いかける。
「どうした? 連合軍本部からのアレにまだ怒ってるのか?」
「当たり。向こうは何考えてるのかしら……」
「さあな。エスパーダ隊の頭の中ほどじゃないが、知りたくないな。……相棒、俺、生きてるか?」
未莱の隣に座り、不意に自分が生きているか尋ねるピクシー。
ピクシーの右手を包むように、自分の両手で掴み、彼の側に寄りかかってから未莱は答えた。
「生きているわよ。死んだ人の手は固くて冷たいけど、あなたの手は柔らかくて暖かいから」
「……ありがとな」
改めて、未莱が相棒でよかったと実感するピクシーであった。
同時に、何故か2日前の夜、素っ裸の彼女を抱き枕代わりにした事も思い出す。
「ちゅっちゅぐらい、してやってもよかったかな?」などと考えるピクシーでもあった……。
次の日。
訓練飛行の予定も客が来る予定も皆無、更に快晴なので滑走路のど真ん中で甲羅干し中の愛機の隣で、未莱は焼酎を飲んでいた。
ご丁寧に、ビーチチェアに寝そべり、ラジオ番組を聴きながら。
「アレからお呼ばれなし……。人に囮させといて、何手間取ってんのかしら。このまま寝ちゃおっと」
焼酎を飲み干し、ラジオのスイッチを切ってから、未莱はそのまま寝てしまった。
数時間後、PJにたたき起こされた時には、既に日は大きく沈んでおり、F-15S/MTDも滑走路奥のハンガーに戻った後。
同時に未莱はPJが深刻な表情をしていることに気付く。
「PJ、どうしたの? 空襲?」
「遥かにマシだけど……、悪い知らせだよ。サイファーたちが囮になってる間に動いていた例の部隊、奇襲を受けたらしい」
PJからもたらされた凶報を聞き、未莱は瞬時に目が覚めた。
PJはなおも続ける。
太陽は更に沈み、空は徐々に黒が広がり始めていた。
「突如現れた敵部隊により、海上部隊の駆逐艦3と空母1隻が撃沈。旗艦、ケストレルの奮戦で何とか撃退したらしいけど……」
数分後、基地司令の部屋。
ゴリアス司令とイーグルアイ、そしてガルム隊の二人がそこにいた。
差し込む夕陽が徐々に弱くなり、室内は暗くなり始めている。
ゴリアス司令が、深刻そうな顔で口を開く。
「PJから聞いただろうが、お前たちが陽動に出ている間に動いていた連合軍の艦隊が奇襲を受けた」
「敵部隊は、迎撃に出たケストレル艦載機の証言から、EF-2000の四機編制であることは分かっている」
イーグルアイの報告に、ピクシーは驚愕し、気付いた。
奇襲部隊の正体に。
「チクショウ! 撃ち落さずに撤退したのが不味かったか!」
「ピクシー、心当たりがあるの?」
「多分、あの艦隊を奇襲したのは、昨日のジャギュア・インターナショナルに乗ってた奴の部隊だ」
未莱の呼びかけで我に帰ったピクシーは、奇襲部隊の正体を、迷うことなく告げる。
ゴリアス司令も、未莱も驚く。
ピクシーは口を開く。
因縁も兼ねた、旧き友人との腐れ縁を呪いながら。
「ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊。通称ロト隊。ベルカ空軍でも、タイフーンの4機編制はこの部隊だけだ」
「思い出した。確かフレイジャー議員の末子が指揮する部隊だったな。ピクシー、そいつのことを知っているのか?」
イーグルアイは、ふとした疑問を口にする。
ピクシーの答えは意外なものであった。
「知ってるも何も、小学校入学から高校卒業までの12年間、学校どころかクラスもずっと同じだった」
この一言に、3人ともあっけに取られ、絶句する。
げに煩わしきは幼き頃からの腐れ縁か。
呆れ果てた未莱は思わずこう言った。
「ひどい腐れ縁ね……」
「ここまで来ると呪いだよ……。相棒、友達は慎重に選べよ」
同日、同時刻、ベルカのとある基地。
ハンガーに、数分前に基地に帰還したロト隊のEF-2000が格納されていく。
その中で、自分の乗機を数秒ほど見つめ、憮然とした顔で司令室へと向かうデトレフの姿があった。
(予想は大当たり。敵に損害を与えることには成功したが……。あの空母、……確か向こうの通信ではケストレルと呼ばれていたな。要注意対象として司令に進言しておかないと)
デトレフは、つい昨日のことを思い出す。
たまたま司令室のある廊下を通った際、ベルンハルトとデミトリの怒号が聞こえ、何事かと気になって聞き耳をたてたのだ。
その会話に、デトレフはただ絶句する。
日本に亡命して行方知れずになったベールヴィント公子の所在を暴露したアングラ雑誌に書かれていた、彼の一人娘の名前が出たのだから。
ミラーフリスト。
確かまだ子供であるはずの彼女が、あろう事か連合軍の一員として戦わされている。
そして、彼女がラリーと組んでいると聞き、あのときのアジャイル・イーグルが彼女であると気付く。
ベルンハルトとデミトリは、その日のうちに隊ごと異動となり、今日の朝方には基地を去った。
(露骨な口封じだな。もっとも、人の口にはそう簡単に戸はたてられないぞ)
昨日のガルム隊の不自然な撤退に首を傾げたデトレフは、彼らの円卓侵入を「陽動」と判断し、他の部隊がそれに紛れている可能性を司令に進言。
結果、オーレッド湾近辺に集結している敵軍の艦隊が発見される。
陽動に成功したことで浮かれている彼らの出鼻をくじくために出撃、ある程度の損害を与えることには成功したものの、艦隊の中で唯一迅速に迎撃態勢をとった空母、ケストレルの猛攻の前に撤収を余儀なくされた。
そして2日後に決行される「第2次ヴァレー空軍基地攻撃」は、何故かロト隊の配置が急遽変更されたが、デトレフは特に気にしなかった。
1995年、4月20日、ヴァレー空軍基地近辺。
円卓を突破し、ウスティオの涼風を切り裂きながら四機のEF-2000が悠々と飛んでいる。
ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊。
ロト隊。
乗機はEF-2000。
彼らの任務は敵迎撃部隊の殲滅。
後方には攻撃機で構成された部隊が待機している……、少なくともロト隊はそう考えていた。
「ロト1より各機、魔犬狩りだ、二人ともベイルアウトに追い込む! お前たちはアジャイル・イーグルを撹乱しろ。青いイーグルは私が叩き落す」
一方、敵部隊の接近を早くも感知して出撃したウスティオ空軍第6航空師団は、ガルム隊を先頭に出撃。
レーダーを確認したイーグルアイは、四機だけ突出していることに気付き、首を傾げた。
「妙だな、四機だけ無駄に突出している。イーグルアイよりガルム隊、気をつけろ、嫌な予感がする」
イーグルアイの警告に反応した未莱とピクシーは、自機のレーダーに目を通す。
確かに、四機だけ妙に突出している。
間違いないな、そう心の中で呟くピクシー。
「恐らくこいつらはロト隊だな」
「根拠は?」
未莱から根拠を聞かれ、ピクシーは迷うことなく口を開く。
「勘」
「それだけで十分」
2機はそのままアフターバーナーを発動。
一気に加速して、ロト隊に接近する。
対するロト隊もそれに気付き、加速。
ウスティオの涼風が、乱気流に変わった。
「ラリー、この赤いツバメが決着をつけてやるぞ!」
「アイツ、ほんとに執念深いな」
「ほんと、友達選びは重要ね」
ロト隊のEF-2000が散開、回避行動に移ると見せかけ、隊長機以外が一斉に未莱のF-15S/MTDの周囲を囲うかのような飛び方を始めた。
その無茶苦茶な機動に、未莱は騒然となる。
「な、何なの!?」
「人呼んで、『ツバメの藁カゴ』!! ミラーフリスト公女殿下、今しばらくお待ちください。すぐに妖精めを撃ち落してご覧にいれます」
デトレフのこの言葉に、未莱とピクシーは驚く。
しかし、ロト隊の他の隊員たちは動じず、『ツバメの藁カゴ』を崩すこともなかった。
「オイ、何でお前まで相棒のもう一つの名前知ってんだよ! それに何でお前の部下たちは動じていないんだ!?」
「フクロウと藍鷺が、基地司令と言い争いしているのを偶然聞いてしまってな。その時に知ったのさ! そして部下たちには前もってそのことを教えておいた」
「用意周到すぎて只管ムカつくぜ」
得意気に語るデトレフ。
呆れるあまり怒りを覚えるピクシー。
熾烈なドッグファイトをしつつ、二人の舌戦も始まった。
ベルカとエストバキアが共同開発したクロースカップルドデルタ機であるEF-2000は、電子機器による制御により、パイロットに負担をかけることなく高機動を発揮するだけでなく、安定した低速飛行も可能である。
対するオーシア原産であるF-15Cは、当時の新機軸を敢えて排することで信頼性と性能を両立させた。
一方、未莱の方は少し苛立っていた。
ある時は囲むかのような無茶苦茶な機動をとり、またある時は張り付くように自機の両側面と背後に張り付く、『ツバメの藁カゴ』に。
「本当にしつこいわね! ……!!?」
何かに勘付いた未莱は、慌てて機体をピッチダウンさせる。
それにつられ、ロト隊の3機もそれに動きを合わせた。
直後、4機の真上をミサイル雲が走る。
何事かと思ったロト4がレーダーを確認すると、味方の部隊からミサイルが接近していた。
「ロ、ロト4よりロト1! み、味方部隊のいる方向からミサイルが来ました!!」
「なんだと!? ロト1より各機、ツバメの藁カゴを解け! 回避に専念しろ!! ストルツよりスウィーニー・トッド、一体どうなっている!!?」
デトレフの呼びかけに対して、ベルカ側の空中管制機、「スウィーニー・トッド」の返事は意外なものであった。
「簡単だ。君たち以外の、この作戦の真の目的は、君たちロト隊の暗殺だ。あしたの朝刊に、「演習飛行中に敵部隊の奇襲を受けロト隊が全滅」の見出しが載る仕組みだ」
「どういうことだ!」
「君たちは殿下を連れ戻し、公王陛下に会わせるつもりだろうが、我々としてはそれは非常に都合が悪いのだよ。故に、上層部は君たちの暗殺を決定した。悪く思うなよ」
嬉々とした表情で説明するスウィーニー・トッド。
それに合わせるかのごとく、後方の部隊が次々と接近してくる。
いずれの部隊も、戦闘機のみで構成されており、爆弾を装備している機は全くなかった。
それを肉眼で確認したデトレフは、唖然とし、元味方部隊の一機に吼える。
「おのれ、それでも公王陛下の臣下か貴様ら!」
「我々にとって、公王陛下は飾りに過ぎない。我々が真に忠誠を誓うはベルカ民主自由党政権だ。……な、いつの間に、ゲヴィアッ!!」
突如として、元味方機の通信が途絶える。
よく見ると、一機の戦闘機が火を吹きながら落ちているところであった。
そして、一人のパイロットの声が、通信で敵味方問わず響き渡る。
「穴だらけの作戦だな。どうせなら俺たちが来る前に暗殺してしまえばよかったものを」
そのパイロットが乗る機体、F-15Nは更にもう一機撃ち落す。
それを見た敵部隊の僚機は散開したが、クロウ隊をはじめとする迎撃部隊の前に片っ端から撃ち減らされていく。
残りの敵部隊もそれを見て撤退しようとするが、『ツバメの藁カゴ』に阻まれ、困惑するうちに未莱のF-15S/MTDから発射されたXLAAで空の藻屑となっていった。
レーダーを確認し、次々と味方機が消えていくのを実感させられたスウィーニー・トッドは思わず呟く。
「何故だ、ロト隊暗殺用に編制された部隊がこうも易々と……」
「後先考えずにただ撃ち落せば終わりって考えるから、こうなるんだよ。お前、バカだろ?」
「所詮、公王陛下を飾り呼ばわりする連中などこの程度か」
ピクシーとデトレフの声を聞き、硬直するスウィーニー・トッド。
ピクシーのF-15Cと、デトレフのEF-2000は混乱に乗じて接近。
スウィーニー・トッドの真正面に移動していたのである。
すでに、2機ともスウィーニー・トッドをロックオンしていた。
「どうする?」
「知れたこと。撃ち落すまでだ」
デトレフは分かりきったことを、と言わんばかりに返す。
そして両者同時に機銃のトリガーを引いた。
「それもそうだな。というわけだから大人しく死ね! バーニング!!」
「この世界からいなくなれ、スウィーニー・トッド! ユニバース!!」
二機の機銃から発射される弾丸の雨が、スウィーニー・トッドの機首を穴だらけにしていく。
あまりの激しさに、やがて機首だけでなく、機内をも貫いていった。
機内の乗員を蜂の巣にされ、スウィーニー・トッドはついに火を吹き始める。
しかし、それでも2機の同時銃撃は終わらない。
「こ、こんな結末、認めてたま……うげあー!!」
空中爆発と共に、スウィーニー・トッドの遺言は強制的に打ち切られた。
片羽根の妖精と赤いツバメの即席コンビネーションに、ヴァレー空軍基地の野郎共から歓声が上がる。
嬉しさを隠し切れないのか、イーグルアイの声も妙にハイテンションだ。
「イーグルアイから全機へ、敵暗殺部隊の全滅を確認した。世の中、悪いことは出来ないな。ところでロト隊諸君、これからどうする?」
イーグルアイのこの言葉に、ロト隊一同、ハッとする。
こんなことになった以上、基地に戻るわけにはいかない。
そして、デトレフが出した答えはある意味彼らしかった。
「基地へ戻るわけには行かない、かといって寝返るのは論外。君たちに投降する」
デトレフのこの一言に、みんな安堵する。
そうと決まれば、後は基地へ戻るだけだ。
一応、第六航空師団の各機はロト隊を囲うかのような編隊を組み、ともにヴァレー空軍基地へと帰っていく。
しかし、未莱のF-15S/MTDと、デトレフのEF-2000は他の機よりも後方を飛んでいた。
二人の意図を察したイーグルアイは、ピクシーの残りの機の先導をまかせ、基地へと帰還させる。
それを確認した未莱は、デトレフに呼びかけた。
「それじゃ、円卓での続きをしましょうか?」
「デトレフ・フレイジャー、謹んでお相手いたします」
鷲と台風が、ウスティオの涼風をつむじ風に変えながら、エースのプライドを以って激突する。
約一時間後、ヴァレー空軍基地の滑走路。
ロト隊の4機のEF-2000をバックに、第6航空師団の漢連中と、手錠をつけられたロト隊が集合していた。
それを、オーシアの敏腕記者、ビンセント・ハーリングが今カメラに収めんとしている。
そしてその隣には、合図係の未莱が立っていた。
少しだけ寒気が薄れたウスティオの涼風が吹く中、ビンセントの声と、未莱の合図が響く。
「OK! ロト隊のみんなはそのまま作りしかめっ面で。頼むぞー!」
「ロト隊以外は、笑えー!」
その日オーシアでは、ウスティオ空軍第6航空師団がロト隊を捕虜にしたことが、ビンセントの所属する新聞社の号外で知れ渡ることになる。
その号外は、遥かベルカや、占領された各国にも行き渡った。
次の日、オーシアのとある空軍基地の一室。
オーシア国防空軍、第8航空団第32戦闘飛行隊隊長、ジョシュア・ブリストーは、その号外を読んで、意味深な微笑を浮かべていた。
その隣には直属の部下である、第8航空団第32戦闘飛行分遣隊隊長、アンソニー・パーマーがいる
彼の方は、ジョシュアとは対照的に驚愕に満ちた顔で号外を見ていた。
「ルーカン大尉、これは?」
「読んでのとおりだ。どうせサイファーの正体に感づいて、味方に消されそうになったのをサイファーたちに助けてもらったのが真相だろう。べディビア、予定繰上げだ。今すぐヴァレー空軍基地に向かうぞ」
「了解しました。隊員たちとニカノール准将にも伝えます」
そう復唱し、アンソニーは部屋を出る。
春の陽気が過ぎかけている中、いつ終わるとも知れない春風を浴びながらジョシュアは考える。
じゃじゃ馬ならぬじゃじゃ鳥の指揮下につく羽目になった悪友、ラリー・フォルクのことも、少しだけ心配していた。
「アイツ、やつれていないといいが……」
再び2005年、ディンズマルク大学。
「私は今も傭兵が嫌いだ。
背負うものがなければその分速く飛べるとでもいうのか?
君は考えたことがあるか? 国というものを。
国家とは、そこに生きる人が為し、育むもの。
哀しいかな、オーシアもベルカも、当時はそれを理解する為政者に恵まれていなかった。
だから私はあの日を境に、ベルカではなく殿下の正当性を信じることにしたのだよ」
“あの戦争で唯一正しかったのは、サイファーであったと?”
「そうだ。
考えてもみたまえ、自国に核を落としたベルカ民主自由党政権の何処が正しい?
殿下を利用した挙句、戦後の大半の利権を掠め取ろうとしたオーシアの何処が正しい?」
“両方とも全然正しくありませんね”
「そうだ。
両方とも全くもって正しくない。
故に私は、今も殿下が最も正しいと信じている。
それが私なりの忠節だからだ」
“ところで、あの一騎打ち、結果はどうなったのですか?”
「ヴァレー空軍基地に向かいながらの背後の獲りあいは、紙一重で殿下の勝利に終わったよ。
不思議と悔しくはなかった。
子供の頃、どっちが先に図書館に着くか、ラリーと競争した時の気分を思い出したよ」
一喜一憂。
そんな言葉が当てはまるほど、彼の表情はインタビュー中めまぐるしく変わった。
片羽根の妖精の旧き好き友、赤いツバメ。
彼は私の予想とは違い、鮮やかに感情豊かだった。
そんな彼にインタビューできたのは、ある意味名誉なことかもしれない。
インタビューを終え、彼がチャーターしてくれたハイヤーに乗り、私は空港へと向かう。
今度は、ガルム3へのインタビューだ。
ピクシーとPJ。
ガルム隊の2番機と3番機。
ある日、PJはガルム隊の転属となる。
隊長は誇りに生きる戦乙女、2番機は報酬優先の妖精、そして彼は臨機応変な理想主義者。
次回、「戦域攻勢作戦計画4101〜誇りのガルム3〜」。
蛇よ蛇、お前は何故鷲と交代した?
カワウに撃たれ、修理に時間がかかるほどガタが来たからだ。
ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊「ロト隊」隊長。
TACネームはストルツ。
当時の階級は少佐。
その容姿と実力を逆手に取り、軍に自分を利用させた男。
天然ボケを武器に一代で民衆の心を掴んだフレイジャー議員の末子だが、兄たちとは違って「私は父のようにはならない」が口癖だった。
戦争に対する考え方と、かつての友人であるラリーが義両親の心配をよそに金のために傭兵として空を飛んでいたという事実から、傭兵を非常に嫌っている。
ふとした偶然でサイファーの正体を知り、紆余曲折の末に自らの意思で捕虜となり、陰で彼女を支え続けた。
戦後は他のベルカ出身の「エインフェリアの会」会員同様、予備役になり、ディンズマルク大学に講師として就職。
現在は同大学で、歴史学の教授になっている。
ミラーフリスト殿下への忠誠心は極めて強く、エインフェリアの会の事実上の管制官役を任されている。
2005年、ディンスマルク大学。
「殿下ほどではないが、君はいい目をしているな。
マタキチ・アクトクとか言う奴とは大違いだ」
“彼をご存知なんですか?”
「一足先に、サイファー……、殿下について知っていることはないかと取材しに来たよ。
即行で門前払いしたがね。
殴りたくなるのを必死で我慢してやったよ。
金だけのために、ゴシップを書き続ける悪党の取材なんか誰が受けるものか」
“我々の間でも、評判は最悪ですから”
「やはりな……。
話を本題に移そう。
あの頃の私は誇りに満ちていた。
戦争とは、互いの国の人間同士の誇りを賭けた戦いだ。
だから、私は金以外に背負うものがない傭兵が嫌いだ。
たとえ、人としては素晴らしいとしても。
旧友が傭兵になったのも大きいがな」
“ラリー・フォルクのことですね?”
「そうだ。
20年前ぐらい前になるかな、奴は、御義両親の周囲に群がる財政界と軍の極右派への反発からを家を飛び出した。
奴の家の名誉のために言っておくが、御義両親はむしろ穏健派だった」
“彼がウスティオ側についたと知った際、相当怒り狂ったそうですが?”
「……おじさんたちを散々心配させ、挙句の果てに祖国に牙を剥いたんだ。
私が怒り狂ったのも当然だ」
“それが何故、捕虜に?”
「少し、長くなるぞ?」
第3作戦「円卓〜サイファー対ストルツ〜」
1995年、4月17日、B7R。
通称、『円卓』。
ベルカ戦争の発端となった大量の鉱山資源が眠る山脈。
薄い雲が通り過ぎ、ウスティオ特有の涼風が吹き荒れていた。
鉱山資源が生み出す磁場のせいで、円卓一帯は電波障害が頻発する。
ガルム隊の二機が、そこを飛んでいた。
すぐ隣を飛ぶピクシーに、未莱は心配そうに話しかけた。
「あご、まだ痛い?」
「……イーグルアイのアッパーが綺麗に決まったからな。帰ったらもう一回診てもらわんと」
昨日の朝、未莱が寝ぼけて部屋を出たのが原因で、ピクシーは袋叩きにされたのだ。
理由は簡単。
未莱はその時、全裸だったから。
たまたま近くを通りかかっていたイーグルアイがそれを見てしまい、絶叫。
駆けつけたゴリアス大佐やクロウ隊、ヴァイパー・キッチン隊のみんなまで見てしまい、そろってピクシーが未莱に手を出したと誤解。
結果、ピクシーは袋叩きの憂き目に遭う。
その後、未莱が必死で事情を説明したため疑いは晴れたものの、抱き枕代わりにしたのがネックとなり、単独での円卓強行偵察を厳命されたのである。
もっとも、すぐに未莱が突っかかってきたため、未莱も強行偵察に参加することとなった。
「……やっぱ、下着くらいは着せた方が良かったな」
「ヘう……」
自分の方にも原因があるため、未莱はへこんだ。
まだ、敵機の反応は無い。
そして数十秒後、イーグルアイが敵機をレーダーで捕捉した。
「イーグルアイよりガルム隊、敵部隊の反応を確認。撤収許可が出るまで応戦せよ」
『了解』
円卓にミサイル雲が出始めた頃、一機の攻撃機が戦闘空域に近づきつつあった。
攻撃機兼高等練習機として開発されたGR Mk.1の高出力バージョン、ジャギュア・インターナショナルである。
この機体は練習機としては高価なため、ベルカ空軍で訓練飛行時に乗れるのは、一握りのエリートやエースのみなのだ。
配備事情の都合上、特定のエース部隊の専用カラーに塗装されるだけでなく、戦闘機の機動が出来るように改造されることもある。
今飛んでいるのは、灰色の胴体に赤い機首、ロト隊隊長用機。
ウスティオの涼風を切り裂き、ジャギュア・インターナショナルが飛んでいる。
「単独訓練中に敵部隊がB7Rに進入するとはな。敵機数は、2機。……ラリーとアジャイル・イーグルか!」
たまたま部隊の乗機が全機定期点検中の上、部下たちが休暇を利用して基地から離れていたため、円卓で単独訓練飛行と洒落込んだのである。
『赤いツバメ』、デトレフ・フレイジャーは、神にホンの少しだけ感謝した。
旧き友と、その相棒を撃ち落す機会を与えてくれたことに。
「気まぐれとは言え、実弾を積んでいて正解だったな。待っていろ、ラリー。叩き落して小父さんと小母さんのところに突き出してやる!」
それから数分後、ガルム隊が巡回中の敵部隊を壊滅させ、偵察任務に戻ろうとした矢先であった。
イーグルアイが、敵機の反応を捉えたのである。
司令部からの撤収許可はまだ出ていない。
イーグルアイはそのまま声を出す。
「イーグルアイよりガルム隊、敵機が接近中。数は一機」
『一機だけ!?』
「まだ撤収許可は出ていない。応戦せよ」
ピクシーは「まだかよ」といった表情で、未莱は初陣の時と同じ冷たい表情で、イーグルアイの指令を聞く。
幸い、両方とも乗機の銃弾とミサイルは十分残っていた。
徐々に近づく、敵機のマークに一度だけ視線を移し、同時に復唱する。
『了解』
「サイファー、もしピクシーが落とされたら、迷わず……」
「ネガティブ。それ以上言ったら先にあなたを落とすわよ、イーグルアイ」
殺気のこもった声でイーグルアイを黙らせる未莱。
イーグルアイは、未莱の殺気に硬直する。
2回しか実戦を経験していない新人が放つ物とは思えない殺気。
そして、ピクシーはそのやり取りを聞いて笑い出した。
「ブハハハハハ! 相棒の逆鱗に触れてやんの」
「薄情者のイーグルアイなんか放っておいて、近づいてる一機に集中するわよ」
「ガルム2了解。それでこそ相棒だ」
ガルム隊の二機は加速。
二機とも速度をマッハ2にする。
しばらくして、二人は機影を確認した。
「アレはジャギュアじゃないか」
「練習機でこの円卓に来るなんて、物好きもいたものね」
思わず拍子抜けした二人だが、ミサイルアラートで現実に引き戻された。
ジャギュア・インターナショナルがXLAAを発射したのである。
危うくヘッドショットになる寸前に、二人は急下降し、XLAAを回避。
円卓に、ミサイル雲が新たに二本書き起こされた。
「練習機がなんでXLAA積んでんだよ!」
「積めるように改造してあるだけだ」
ピクシーの愚痴に、未莱ではなくジャギュアのパイロットが答える。
ピクシーはパイロットの声に聞き覚えがあった。
小中高、12年間ずっと聞き続け、実家を飛び出したあの日から聞かなかった腐れ縁のあの男の声。
「その声、デトレフか!?」
「久しぶりだな、ラリー!!」
改造の結果、攻撃機離れした機動を見せるジャギュア・インターナショナル。
その機動に焦りつつも、ピクシーはF-15を急旋回させる。
その隙を突き、デトレフは機銃のトリガーを引こうとして……、キャノピーに亀裂が走り動揺した。
「何だと!?」
「ち、狙いが甘かったわ」
デトレフが、ピクシーに気をとられている間に、未莱が真横からコックピットに狙いを定めて機銃を発射したのだ。
幸か不幸か、キャノピー正面を弾が掠っただけであったが。
今度こそは、と再びロックオンした直後、イーグルアイからの通信が入った。
「イーグルアイよりガルム隊、司令部から撤退許可が出た。帰還せよ。繰り返す、帰還せよ」
やっと出た撤退許可に、ピクシーは安堵しながら、未莱は少し不満げに機体をヴァレー空軍基地の方に向け、アフターバーナーを吹かした。
無論、それを見たデトレフは怒号を上げる。
「待て!」
「待てといわれて待つバカはいないわよ」
「そういうことだ。じゃあな、親父と御袋によろしく言っといてくれや」
マッハ2以上の速度を出し、ガルム隊はあっさりと円卓を後にする。
戦闘機レベルの機動は出来るように改造されてはいるが、あくまでも「それだけ」に過ぎず、F-15以上の速度は出せない。
一方、悔しさで歯軋りしているデトレフに、基地から通信が入った。
「おのれ、あのアジャイル・イーグルめ!」
「ストルツ、敵部隊は撤退した。帰還せよ。ところで、機体にどこか異常はあるか?」
「キャノピーに亀裂が生じたが、それ以外の異常は無い。帰還する。……しかし、私を残していきなり撤退するとは……。連合軍め、あの2機をルアー代わりにしたか」
ヴァレー空軍基地、医務室前の廊下。
据え置きのソファーに座り、ピクシーが出てくるのを待ちながら、連合軍本部からの通信内容を思い出した未莱は憤慨していた。
「私が同行するのに、ゴリアス司令とイーグルアイが最後まで渋った理由が分かったわ……。まさか囮役だったとわね」
廊下を通る者はいない。
未莱の愚痴が廊下で小さく反響する。
ぶつくさ言っていると、ちょうどピクシーが出てきた。
機嫌が悪そうな相棒の姿が気になったのか、ピクシーは何があったのかを問いかける。
「どうした? 連合軍本部からのアレにまだ怒ってるのか?」
「当たり。向こうは何考えてるのかしら……」
「さあな。エスパーダ隊の頭の中ほどじゃないが、知りたくないな。……相棒、俺、生きてるか?」
未莱の隣に座り、不意に自分が生きているか尋ねるピクシー。
ピクシーの右手を包むように、自分の両手で掴み、彼の側に寄りかかってから未莱は答えた。
「生きているわよ。死んだ人の手は固くて冷たいけど、あなたの手は柔らかくて暖かいから」
「……ありがとな」
改めて、未莱が相棒でよかったと実感するピクシーであった。
同時に、何故か2日前の夜、素っ裸の彼女を抱き枕代わりにした事も思い出す。
「ちゅっちゅぐらい、してやってもよかったかな?」などと考えるピクシーでもあった……。
次の日。
訓練飛行の予定も客が来る予定も皆無、更に快晴なので滑走路のど真ん中で甲羅干し中の愛機の隣で、未莱は焼酎を飲んでいた。
ご丁寧に、ビーチチェアに寝そべり、ラジオ番組を聴きながら。
「アレからお呼ばれなし……。人に囮させといて、何手間取ってんのかしら。このまま寝ちゃおっと」
焼酎を飲み干し、ラジオのスイッチを切ってから、未莱はそのまま寝てしまった。
数時間後、PJにたたき起こされた時には、既に日は大きく沈んでおり、F-15S/MTDも滑走路奥のハンガーに戻った後。
同時に未莱はPJが深刻な表情をしていることに気付く。
「PJ、どうしたの? 空襲?」
「遥かにマシだけど……、悪い知らせだよ。サイファーたちが囮になってる間に動いていた例の部隊、奇襲を受けたらしい」
PJからもたらされた凶報を聞き、未莱は瞬時に目が覚めた。
PJはなおも続ける。
太陽は更に沈み、空は徐々に黒が広がり始めていた。
「突如現れた敵部隊により、海上部隊の駆逐艦3と空母1隻が撃沈。旗艦、ケストレルの奮戦で何とか撃退したらしいけど……」
数分後、基地司令の部屋。
ゴリアス司令とイーグルアイ、そしてガルム隊の二人がそこにいた。
差し込む夕陽が徐々に弱くなり、室内は暗くなり始めている。
ゴリアス司令が、深刻そうな顔で口を開く。
「PJから聞いただろうが、お前たちが陽動に出ている間に動いていた連合軍の艦隊が奇襲を受けた」
「敵部隊は、迎撃に出たケストレル艦載機の証言から、EF-2000の四機編制であることは分かっている」
イーグルアイの報告に、ピクシーは驚愕し、気付いた。
奇襲部隊の正体に。
「チクショウ! 撃ち落さずに撤退したのが不味かったか!」
「ピクシー、心当たりがあるの?」
「多分、あの艦隊を奇襲したのは、昨日のジャギュア・インターナショナルに乗ってた奴の部隊だ」
未莱の呼びかけで我に帰ったピクシーは、奇襲部隊の正体を、迷うことなく告げる。
ゴリアス司令も、未莱も驚く。
ピクシーは口を開く。
因縁も兼ねた、旧き友人との腐れ縁を呪いながら。
「ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊。通称ロト隊。ベルカ空軍でも、タイフーンの4機編制はこの部隊だけだ」
「思い出した。確かフレイジャー議員の末子が指揮する部隊だったな。ピクシー、そいつのことを知っているのか?」
イーグルアイは、ふとした疑問を口にする。
ピクシーの答えは意外なものであった。
「知ってるも何も、小学校入学から高校卒業までの12年間、学校どころかクラスもずっと同じだった」
この一言に、3人ともあっけに取られ、絶句する。
げに煩わしきは幼き頃からの腐れ縁か。
呆れ果てた未莱は思わずこう言った。
「ひどい腐れ縁ね……」
「ここまで来ると呪いだよ……。相棒、友達は慎重に選べよ」
同日、同時刻、ベルカのとある基地。
ハンガーに、数分前に基地に帰還したロト隊のEF-2000が格納されていく。
その中で、自分の乗機を数秒ほど見つめ、憮然とした顔で司令室へと向かうデトレフの姿があった。
(予想は大当たり。敵に損害を与えることには成功したが……。あの空母、……確か向こうの通信ではケストレルと呼ばれていたな。要注意対象として司令に進言しておかないと)
デトレフは、つい昨日のことを思い出す。
たまたま司令室のある廊下を通った際、ベルンハルトとデミトリの怒号が聞こえ、何事かと気になって聞き耳をたてたのだ。
その会話に、デトレフはただ絶句する。
日本に亡命して行方知れずになったベールヴィント公子の所在を暴露したアングラ雑誌に書かれていた、彼の一人娘の名前が出たのだから。
ミラーフリスト。
確かまだ子供であるはずの彼女が、あろう事か連合軍の一員として戦わされている。
そして、彼女がラリーと組んでいると聞き、あのときのアジャイル・イーグルが彼女であると気付く。
ベルンハルトとデミトリは、その日のうちに隊ごと異動となり、今日の朝方には基地を去った。
(露骨な口封じだな。もっとも、人の口にはそう簡単に戸はたてられないぞ)
昨日のガルム隊の不自然な撤退に首を傾げたデトレフは、彼らの円卓侵入を「陽動」と判断し、他の部隊がそれに紛れている可能性を司令に進言。
結果、オーレッド湾近辺に集結している敵軍の艦隊が発見される。
陽動に成功したことで浮かれている彼らの出鼻をくじくために出撃、ある程度の損害を与えることには成功したものの、艦隊の中で唯一迅速に迎撃態勢をとった空母、ケストレルの猛攻の前に撤収を余儀なくされた。
そして2日後に決行される「第2次ヴァレー空軍基地攻撃」は、何故かロト隊の配置が急遽変更されたが、デトレフは特に気にしなかった。
1995年、4月20日、ヴァレー空軍基地近辺。
円卓を突破し、ウスティオの涼風を切り裂きながら四機のEF-2000が悠々と飛んでいる。
ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊。
ロト隊。
乗機はEF-2000。
彼らの任務は敵迎撃部隊の殲滅。
後方には攻撃機で構成された部隊が待機している……、少なくともロト隊はそう考えていた。
「ロト1より各機、魔犬狩りだ、二人ともベイルアウトに追い込む! お前たちはアジャイル・イーグルを撹乱しろ。青いイーグルは私が叩き落す」
一方、敵部隊の接近を早くも感知して出撃したウスティオ空軍第6航空師団は、ガルム隊を先頭に出撃。
レーダーを確認したイーグルアイは、四機だけ突出していることに気付き、首を傾げた。
「妙だな、四機だけ無駄に突出している。イーグルアイよりガルム隊、気をつけろ、嫌な予感がする」
イーグルアイの警告に反応した未莱とピクシーは、自機のレーダーに目を通す。
確かに、四機だけ妙に突出している。
間違いないな、そう心の中で呟くピクシー。
「恐らくこいつらはロト隊だな」
「根拠は?」
未莱から根拠を聞かれ、ピクシーは迷うことなく口を開く。
「勘」
「それだけで十分」
2機はそのままアフターバーナーを発動。
一気に加速して、ロト隊に接近する。
対するロト隊もそれに気付き、加速。
ウスティオの涼風が、乱気流に変わった。
「ラリー、この赤いツバメが決着をつけてやるぞ!」
「アイツ、ほんとに執念深いな」
「ほんと、友達選びは重要ね」
ロト隊のEF-2000が散開、回避行動に移ると見せかけ、隊長機以外が一斉に未莱のF-15S/MTDの周囲を囲うかのような飛び方を始めた。
その無茶苦茶な機動に、未莱は騒然となる。
「な、何なの!?」
「人呼んで、『ツバメの藁カゴ』!! ミラーフリスト公女殿下、今しばらくお待ちください。すぐに妖精めを撃ち落してご覧にいれます」
デトレフのこの言葉に、未莱とピクシーは驚く。
しかし、ロト隊の他の隊員たちは動じず、『ツバメの藁カゴ』を崩すこともなかった。
「オイ、何でお前まで相棒のもう一つの名前知ってんだよ! それに何でお前の部下たちは動じていないんだ!?」
「フクロウと藍鷺が、基地司令と言い争いしているのを偶然聞いてしまってな。その時に知ったのさ! そして部下たちには前もってそのことを教えておいた」
「用意周到すぎて只管ムカつくぜ」
得意気に語るデトレフ。
呆れるあまり怒りを覚えるピクシー。
熾烈なドッグファイトをしつつ、二人の舌戦も始まった。
ベルカとエストバキアが共同開発したクロースカップルドデルタ機であるEF-2000は、電子機器による制御により、パイロットに負担をかけることなく高機動を発揮するだけでなく、安定した低速飛行も可能である。
対するオーシア原産であるF-15Cは、当時の新機軸を敢えて排することで信頼性と性能を両立させた。
一方、未莱の方は少し苛立っていた。
ある時は囲むかのような無茶苦茶な機動をとり、またある時は張り付くように自機の両側面と背後に張り付く、『ツバメの藁カゴ』に。
「本当にしつこいわね! ……!!?」
何かに勘付いた未莱は、慌てて機体をピッチダウンさせる。
それにつられ、ロト隊の3機もそれに動きを合わせた。
直後、4機の真上をミサイル雲が走る。
何事かと思ったロト4がレーダーを確認すると、味方の部隊からミサイルが接近していた。
「ロ、ロト4よりロト1! み、味方部隊のいる方向からミサイルが来ました!!」
「なんだと!? ロト1より各機、ツバメの藁カゴを解け! 回避に専念しろ!! ストルツよりスウィーニー・トッド、一体どうなっている!!?」
デトレフの呼びかけに対して、ベルカ側の空中管制機、「スウィーニー・トッド」の返事は意外なものであった。
「簡単だ。君たち以外の、この作戦の真の目的は、君たちロト隊の暗殺だ。あしたの朝刊に、「演習飛行中に敵部隊の奇襲を受けロト隊が全滅」の見出しが載る仕組みだ」
「どういうことだ!」
「君たちは殿下を連れ戻し、公王陛下に会わせるつもりだろうが、我々としてはそれは非常に都合が悪いのだよ。故に、上層部は君たちの暗殺を決定した。悪く思うなよ」
嬉々とした表情で説明するスウィーニー・トッド。
それに合わせるかのごとく、後方の部隊が次々と接近してくる。
いずれの部隊も、戦闘機のみで構成されており、爆弾を装備している機は全くなかった。
それを肉眼で確認したデトレフは、唖然とし、元味方部隊の一機に吼える。
「おのれ、それでも公王陛下の臣下か貴様ら!」
「我々にとって、公王陛下は飾りに過ぎない。我々が真に忠誠を誓うはベルカ民主自由党政権だ。……な、いつの間に、ゲヴィアッ!!」
突如として、元味方機の通信が途絶える。
よく見ると、一機の戦闘機が火を吹きながら落ちているところであった。
そして、一人のパイロットの声が、通信で敵味方問わず響き渡る。
「穴だらけの作戦だな。どうせなら俺たちが来る前に暗殺してしまえばよかったものを」
そのパイロットが乗る機体、F-15Nは更にもう一機撃ち落す。
それを見た敵部隊の僚機は散開したが、クロウ隊をはじめとする迎撃部隊の前に片っ端から撃ち減らされていく。
残りの敵部隊もそれを見て撤退しようとするが、『ツバメの藁カゴ』に阻まれ、困惑するうちに未莱のF-15S/MTDから発射されたXLAAで空の藻屑となっていった。
レーダーを確認し、次々と味方機が消えていくのを実感させられたスウィーニー・トッドは思わず呟く。
「何故だ、ロト隊暗殺用に編制された部隊がこうも易々と……」
「後先考えずにただ撃ち落せば終わりって考えるから、こうなるんだよ。お前、バカだろ?」
「所詮、公王陛下を飾り呼ばわりする連中などこの程度か」
ピクシーとデトレフの声を聞き、硬直するスウィーニー・トッド。
ピクシーのF-15Cと、デトレフのEF-2000は混乱に乗じて接近。
スウィーニー・トッドの真正面に移動していたのである。
すでに、2機ともスウィーニー・トッドをロックオンしていた。
「どうする?」
「知れたこと。撃ち落すまでだ」
デトレフは分かりきったことを、と言わんばかりに返す。
そして両者同時に機銃のトリガーを引いた。
「それもそうだな。というわけだから大人しく死ね! バーニング!!」
「この世界からいなくなれ、スウィーニー・トッド! ユニバース!!」
二機の機銃から発射される弾丸の雨が、スウィーニー・トッドの機首を穴だらけにしていく。
あまりの激しさに、やがて機首だけでなく、機内をも貫いていった。
機内の乗員を蜂の巣にされ、スウィーニー・トッドはついに火を吹き始める。
しかし、それでも2機の同時銃撃は終わらない。
「こ、こんな結末、認めてたま……うげあー!!」
空中爆発と共に、スウィーニー・トッドの遺言は強制的に打ち切られた。
片羽根の妖精と赤いツバメの即席コンビネーションに、ヴァレー空軍基地の野郎共から歓声が上がる。
嬉しさを隠し切れないのか、イーグルアイの声も妙にハイテンションだ。
「イーグルアイから全機へ、敵暗殺部隊の全滅を確認した。世の中、悪いことは出来ないな。ところでロト隊諸君、これからどうする?」
イーグルアイのこの言葉に、ロト隊一同、ハッとする。
こんなことになった以上、基地に戻るわけにはいかない。
そして、デトレフが出した答えはある意味彼らしかった。
「基地へ戻るわけには行かない、かといって寝返るのは論外。君たちに投降する」
デトレフのこの一言に、みんな安堵する。
そうと決まれば、後は基地へ戻るだけだ。
一応、第六航空師団の各機はロト隊を囲うかのような編隊を組み、ともにヴァレー空軍基地へと帰っていく。
しかし、未莱のF-15S/MTDと、デトレフのEF-2000は他の機よりも後方を飛んでいた。
二人の意図を察したイーグルアイは、ピクシーの残りの機の先導をまかせ、基地へと帰還させる。
それを確認した未莱は、デトレフに呼びかけた。
「それじゃ、円卓での続きをしましょうか?」
「デトレフ・フレイジャー、謹んでお相手いたします」
鷲と台風が、ウスティオの涼風をつむじ風に変えながら、エースのプライドを以って激突する。
約一時間後、ヴァレー空軍基地の滑走路。
ロト隊の4機のEF-2000をバックに、第6航空師団の漢連中と、手錠をつけられたロト隊が集合していた。
それを、オーシアの敏腕記者、ビンセント・ハーリングが今カメラに収めんとしている。
そしてその隣には、合図係の未莱が立っていた。
少しだけ寒気が薄れたウスティオの涼風が吹く中、ビンセントの声と、未莱の合図が響く。
「OK! ロト隊のみんなはそのまま作りしかめっ面で。頼むぞー!」
「ロト隊以外は、笑えー!」
その日オーシアでは、ウスティオ空軍第6航空師団がロト隊を捕虜にしたことが、ビンセントの所属する新聞社の号外で知れ渡ることになる。
その号外は、遥かベルカや、占領された各国にも行き渡った。
次の日、オーシアのとある空軍基地の一室。
オーシア国防空軍、第8航空団第32戦闘飛行隊隊長、ジョシュア・ブリストーは、その号外を読んで、意味深な微笑を浮かべていた。
その隣には直属の部下である、第8航空団第32戦闘飛行分遣隊隊長、アンソニー・パーマーがいる
彼の方は、ジョシュアとは対照的に驚愕に満ちた顔で号外を見ていた。
「ルーカン大尉、これは?」
「読んでのとおりだ。どうせサイファーの正体に感づいて、味方に消されそうになったのをサイファーたちに助けてもらったのが真相だろう。べディビア、予定繰上げだ。今すぐヴァレー空軍基地に向かうぞ」
「了解しました。隊員たちとニカノール准将にも伝えます」
そう復唱し、アンソニーは部屋を出る。
春の陽気が過ぎかけている中、いつ終わるとも知れない春風を浴びながらジョシュアは考える。
じゃじゃ馬ならぬじゃじゃ鳥の指揮下につく羽目になった悪友、ラリー・フォルクのことも、少しだけ心配していた。
「アイツ、やつれていないといいが……」
再び2005年、ディンズマルク大学。
「私は今も傭兵が嫌いだ。
背負うものがなければその分速く飛べるとでもいうのか?
君は考えたことがあるか? 国というものを。
国家とは、そこに生きる人が為し、育むもの。
哀しいかな、オーシアもベルカも、当時はそれを理解する為政者に恵まれていなかった。
だから私はあの日を境に、ベルカではなく殿下の正当性を信じることにしたのだよ」
“あの戦争で唯一正しかったのは、サイファーであったと?”
「そうだ。
考えてもみたまえ、自国に核を落としたベルカ民主自由党政権の何処が正しい?
殿下を利用した挙句、戦後の大半の利権を掠め取ろうとしたオーシアの何処が正しい?」
“両方とも全然正しくありませんね”
「そうだ。
両方とも全くもって正しくない。
故に私は、今も殿下が最も正しいと信じている。
それが私なりの忠節だからだ」
“ところで、あの一騎打ち、結果はどうなったのですか?”
「ヴァレー空軍基地に向かいながらの背後の獲りあいは、紙一重で殿下の勝利に終わったよ。
不思議と悔しくはなかった。
子供の頃、どっちが先に図書館に着くか、ラリーと競争した時の気分を思い出したよ」
一喜一憂。
そんな言葉が当てはまるほど、彼の表情はインタビュー中めまぐるしく変わった。
片羽根の妖精の旧き好き友、赤いツバメ。
彼は私の予想とは違い、鮮やかに感情豊かだった。
そんな彼にインタビューできたのは、ある意味名誉なことかもしれない。
インタビューを終え、彼がチャーターしてくれたハイヤーに乗り、私は空港へと向かう。
今度は、ガルム3へのインタビューだ。
ピクシーとPJ。
ガルム隊の2番機と3番機。
ある日、PJはガルム隊の転属となる。
隊長は誇りに生きる戦乙女、2番機は報酬優先の妖精、そして彼は臨機応変な理想主義者。
次回、「戦域攻勢作戦計画4101〜誇りのガルム3〜」。
蛇よ蛇、お前は何故鷲と交代した?
カワウに撃たれ、修理に時間がかかるほどガタが来たからだ。
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