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2020-07-23

エースコンバット クロスオーバー伝説(目次)

注意
エースコンバットシリーズを題材としたクロスオーバー系二次創作小説です
なお、クロス元は複数ありますので多重が嫌いな方は閲覧を控えてください
世界観もいじくっていますので、その辺も考慮してください

第一期:エースコンバットZERO~ガルム隊伝説~
(エスコンゼロ×やぶうち優作品)


プロローグ「OPENING」

第1作戦「凍空の猟犬~鬼神、覚醒~」

第2作戦「171号線奪還~荒くれ部隊と騎士道部隊~」

第3作戦「円卓~サイファー対ストルツ~」

第4作戦「戦域攻勢作戦計画4101~誇りのガルム3~」
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theme : 二次創作
genre : 小説・文学

2009-02-06

第4作戦「戦域攻勢作戦計画4101~誇りのガルム3~」

ラリー・フォルク&パトリック・ジェームズ・ベケット
ウスティオ空軍第6航空師団第66飛行隊、通称ガルム隊の2番機と3番機。
TACネームはそれぞれピクシーとPJ。
通称、「片羽」と「Mr.死亡フラグブレイカー」。
ラリーはベルカ出身で、幼少時に紛争で両親を亡くし、父方の親類に養子として引き取られた。
その後、周囲に群がる極右派の人間への反発から高校卒業後に家出。
そのまま傭兵になる。
ベルカ戦争の際、今まで金でしか動かなかった彼は、義両親を翻弄し続けたベルカ民主自由党への反発と怨念からウスティオ側につく。
彼が私情で雇い主を選んだのは、これが最初だった。
サイファーと出会った当初、彼女を侮っていたが、模擬戦の際に幾度となく引き分けに持ち込まれる。
10回目の模擬戦の際、焦るあまり無謀な接近でサイファー機を損傷させてしまう。
サイファー機は大破、コレが原因で彼は反則負けの憂き目に。
それ以降は自分の非と、サイファーの実力を認め、彼女の良き僚機として共に戦い続けた。

パトリックは高校卒業後、オーシア大陸一周を敢行。
ある国で英雄と称される飛行機乗りと出会い、その人間性に感化されてパイロットを志すようになる。
「守るもののために戦うのが正義」という主義も、その飛行機乗りの影響が大きい。
大陸一周を終えて帰国後、自分と同じ理由でパイロットになった男が率いる傭兵部隊「クロウ隊」に入隊。
意外と筋が良かったらしく、常に入れ替わりが激しい同隊の3番機の座を手に入れる。
その後、ガルム隊がその功績から注目され、同時にサイファーとピクシーの出生が問題視された際に、ウスティオ政府の奇策で運命が大きく変わった。
数少ないウスティオ出身者であり、なおかつ正義感が強い上に二人より常識的という理由で、形だけの監視役としてガルム隊に転属させられる。
ある種の強力清涼剤役である彼は、意外とナーバスになりやすいサイファーと、彼女に振り回され気苦労が絶えないピクシーを縁の下で支えた。


国境なき世界動乱後、ラリーは実家に強制送還され、かつての友であるデトレフが講師として勤めるディンスマルク大学に入学させられる。
卒業後はルポライター兼カメラマンとして名を馳せた。
その後ユージアの小国の義勇軍に参加、そこでメビウス1と黄色の13に出会い「統一ユージア軍」を立ち上げ、現在はISAF構成国相手に日夜激戦を繰り広げている。

一方のパトリックは、ヴァレー空軍基地に勤務していた恋人と結婚。
ウスティオ政府の要請を断りきれず正規兵になるが、サイファーがベルカに帰化した直後に予備役に移り、故郷に戻る。
現在は実家のパン屋の店員と、パイロット養成学校の非常勤教官という二足の草鞋を履いている。
実家の隣の公園にはクロウ隊所属時に搭乗していたF-16が修復され、ウスティオ政府の計らいでガルム隊所属時の乗機であるF-15Eと一緒にオブジェとして展示されている。
これには家族と一緒に大爆笑したそうだ。
無論この二機は、地元の名物として観光客に大好評である。
今回、ゴリアス中将の連絡を受けたラリーがウスティオに渡航したため、インタビューはパトリックの実家の隣の公園で行うことが出来た。

2005年8月、ガルム隊記念公園。

「まさか、相棒のことを調べてる奴のインタビューを受けることになるとはね」
「断るつもりでした?」
「……ゴリアスのおっさんから電話がきた時はそうしようかと思ったが、いつの間にか拝み倒されて断れなくなった」
「やっぱりピクシーはどこまで行ってもピクシーですね」
「うるせえ」
“お二人とも、初対面時はサイファーにどんな印象を?”
「俺は……あの頃は少し天狗になってたせいもあるが、こんな小さいガキが戦闘機を操縦できるのかよ、って思ったね。
まあ、模擬戦で反則負けになってからは考えを改めたけどな」

「俺は芯の強そうな子だなー、と。
クロウ隊にいた頃、別任務で数ヶ月本隊を離れていたんですけど、戻った直後に先輩からサイファーのことを聞かされてビックリしましたよ。
まだ生理も来てないちっちゃな子が戦闘機に乗って、大戦果を挙げたんだよ、って聞かされて耳を疑いました」

“隊長としてはどうでした?”
「アイツは指揮するより勝手にやらせた方が効率がいいと思ってた節があるな。
実際にこっちに命令するのは、一回の戦闘で1、2回程度だったかな?」

「そんな感じでしたね。
俺は敵のエース部隊が出た時ぐらいしか命令された記憶がないです」

“では、戦闘機乗りとしては?”
「一言で言えば、戦闘機乗りとしては誇りに生きてる感じが強かったな。
ああいうのは、余程の凄腕じゃないと、長生きは出来ない。
その点、腕に関しちゃアイツは文句なしだったね」

「俺は、何回か寒気を感じたことがあります。
とにかく、攻撃に関しては情け無用でしたよ。
ヘッドショットとコックピット狙いは当たり前、興奮しすぎてベイルアウトした敵まで攻撃しかけたこともありました。
オマケに時々、感情とかが抜け落ちたような機動を見せることがあったんです。
それ見るたびに、ゾッとしながらも頼もしさを再認識させられましたね」


第4作戦「戦域攻勢作戦計画4101~誇りのガルム3~」

4月22日、ヴァレー空軍基地。
ガルム隊の2機が、悠々と訓練飛行していた。
そこに、何故かPJのF-16が接近、合流。
当然の如く、ピクシーは管制塔に吼える。

「おい、何でクロウ3がこっちに来てるんだよ!」
「ああ、ちょっとお前ら絡みでオーシアがまた文句言ってきてな、とりあえず黙らせるために監視役の名目でそっちに転属させた」
「どんな文句だよ……」
「何でも、サイファーはベルカ王室の血を引いているし、ピクシーはモロにベルカ出身だから、ガルム隊は寝返る可能性があるだろ? なーんてバカな内容らしい。それだけならまだしも、向こうも監視役を送りつけるとさ」

あまりにも下らないオーシアからのクレームに、ピクシーはただ呆れるしかなかった。
未莱の方は、呆れるあまり無言に徹する。
そんな空気を読まず、PJは二人に堂々と挨拶した。

「こちらクロウ3、PJ。本日付でガルム隊に出向することになりました!」
「コールナンバー、ガルム3に変えてね」
「了解。パトリック・ジェームズ・ベケット少尉、本日をもってガルム3を名乗らせていただきます!」

呆れつつも、コールナンバーを変えるよう命令する未莱。
元気に復唱するPJ。
しかし、ピクシーは今一納得できていなかった。
PJの乗機がF-16Cであることに。

「相棒、おかしいとは思わないか?」
「何が?」
「ガルム隊に、F-15以外の機体が混じっている。コレは由々しき事態だぞ」

ピクシーのその一言に、思わず納得する未莱。
そして、視線を隣を飛んでいるF-16Cに移す。

「だからといってこっちが落としたら本末転倒よ。向こうの腕利きに落とされるのを待ちましょ」
「それもそうだな。ガルム2、了解」

なんとも物騒なやり取りをするガルム1&2。
しかし、この物騒な会話に臆することなくPJは言い切った。

「ガルム3より1と2。俺は終戦までこのヴァイパーで戦い抜くつもりです」


数分後、22機の航空機がヴァレー空軍基地に着陸。
ユークトバニア空軍所属が一機。
残りの21機はオーシア空軍所属。
オーシアとユーク側が強引に派遣した、ガルム隊の監視役である。
オーシアの部隊の隊長2名と、ユーク軍人をゴリアス司令が出迎え、敬礼する。

「ヴァレー空軍基地へようこそ。この基地の司令を任されている、マッシーヴァー・ゴリアス大佐です」

3人も、それぞれ敬礼と同時に自己紹介する。

「オーシア国防空軍、第8航空団第32戦闘飛行隊、「ウィザード隊」隊長、ジョシュア・ブリストー大尉です」
「同隊の分遣隊、「ソーサラー隊」隊長、アンソニー・パーマー中尉です」
「ユークトバニア空軍司令部、セリョージャ・ヴィクトロヴィッチ・ニカノール准将です。階級は上ですが、その点は軽視してください」

彼らは、大国がサイファーとピクシーの監視のために寄越した、云わば「味方撃ち」係である。
どうやって、事故か戦死に見せかけて殺そうかと考えていたところ、ジョシュアから意外な言葉が出てきた。

「ご安心を、我々総勢22名、誰一人として本部から課せられた、下らない命令に従う気はありません」

その言葉に唖然とするゴリアス司令。
それに構わず、ジョシュアは続ける。

「我々が派遣されると聞いて、どうせどうやって我々を始末するか考えていたでしょう? 大丈夫、我々は全面的に貴方たちに協力します」
「……本気ですかな?」
「本気です。スクリーム・スキャンダルを引き起こした私が保障します」

ジョシュアは力強く言いきり、ゴリアスはその言葉を信じることにした。
固く握手するゴリアスとジョシュア。
それ見ていたアンソニーたちは心なしか安堵しているようである。
そこに、ガルム隊の3機がゴリアスたちの真上を通り過ぎ、滑走路の奥の方へと着陸した。
ジョシュアたちは、F-15S/MTDとF-15Cに紛れ込んでいるF-16Cの姿を見て、納得する。

「あのファイティングファルコンが、ウスティオ側の監視役ですか。なるほど、あの二人を監視する気が全く無いようで何よりです」



ガルム隊(サイファーとピクシー)の部屋。
未莱たちが戻ると、何故かクロウ隊とヴァイパー・キッチン隊の面子が誰かの私物を運んでいた。
それを見たピクシーは、ピットたちに食って掛かる。

「おい、一体何やってんだ!?」
「お、戻ってきたか。なに、ガルム3の荷物一式、運んでるだけだ」
「……どういう事だ?」

唖然とするピクシーに、PJはさらりと説明する。

「こないだ寝ぼけたサイファーが素っ裸で廊下に出たのをイーグルアイが見つけて騒ぎになったじゃないですか。だから、俺が同じ部屋で寝泊りすれば防止に繋がるだろう、って司令が思いついたんです」
「そういうことかよ……」

呆れるピクシーをよそに、PJも作業を手伝い始める。
それほど多くなかったせいか、あっという間に作業は終わった。
部屋自体が元々かなり広いためか、手狭になった感じが全然しない上に、ベッドが追加されてすらいない。
そろって顔を合わせる未莱とピクシーを見たPJが、今まで使われていなかった収納の扉を開け、内部にシーツ、布団、枕が敷かれているのを見せた。

「前の部屋では二段ベッドだったんで、持ち込むに持ち込めなかったんですよ。で、この収納のこと司令に聞かされたんで、ベッド代わりに使わせてもらうことにしたんです」

相変わらず朗らかなPJの性格にあわせてか、春の陽光がいつもより強く室内に差し込んでいた。
何かの漫画のような光景に、ピクシーは思わず未莱に相談する。

「相棒、俺その内慣れる、よな?」
「次の実戦で一緒に飛べばすぐに慣れると思うわよ。ま、それは置いといて……」

未莱は棚からプラコップ3個を、冷蔵庫から何かのビンを取り出す。
そしてビンの中身である液体を、プラコップに並々と注ぎ、ピクシーとPJに手渡した。
ピクシーとPJは匂いを嗅ぎ、それが酒であることに気付く。

「この酒は……、変わった匂いがするな」
「この匂い、SAKE(サキ)ですね」

匂いを嗅ぎ、更にラベルを見て銘柄を確認したPJが言う。
PJのこの一言にキョトンとしたピクシーは、思わず聞き返す。

「サキ?」
「日本独自のお酒っス。本当は『ニホンシュ』って言うみたいですけど。でも隊長、どうやって手に入れたの? ラベル見た限り、この戦争が始まる何か月も前に対外輸出がストップした銘柄ですよ、ソレ」

PJのこの説明に、ピクシーは思わず納得する。
対照的にPJは、明らかに闇ルートで手に入れたのがバレバレなこの日本酒をどうやって手に入れたのか、未莱に問い質した。

「これ? この戦争のドサクサに紛れてラティオの高級官僚のとこから盗まれたのを、格安で買ったやつよ」
「盗品と知って買ったんすか……」

思いっきり呆れるPJ。
一方のピクシーは視線を手に持ったコップから未莱、そしてPJの順に移した。

「相棒は物凄い酒好きだからな。欲しい酒は闇ルート経由で来たやつでも平気で買うんだ

別にたいした問題じゃないだろ、といった感じでピクシーが言う。
ピクシーも長い傭兵生活で、大きな声ではいえないルートで仕入れられた物を買ったことが何度かある。
そのため、盗品を買うことに余り抵抗がないのだ。

「ま、そのことは置いといて、我が第6航空師団第66戦闘飛行隊に3番機が来たのを祝して、乾杯と行きましょ」

この言葉に、未莱が日本酒を出した真意に気付いたピクシーとPJは一瞬キョトンとし、すぐに笑みを浮かべた。

「なるほどね」
「これからお世話になります」

そして、未莱が掛け声を出し、それをピクシーとPJが復唱してから、互いのコップを当てた。

「プロージット!」
『プロージット!』




夕方、食堂。
ウィザード隊、ソーサラー隊、ニカノールが食堂に入ると、テーブルの一画でピクシーと向かい合って座り、夕食をとっている男の姿が目に付いた。
捕虜になったはずの、デトレフ・フレイジャーである。
よく見ると、他のロト隊の隊員たちも思い思いに夕食を楽しんでいた。
ジョシュアの予想は正しかったのである。

「元気そうで何よりだな、ラリー」
「ブリストー、どうしてこの基地に!?」

かつて、オーシアに雇われた際に共闘した「蒼い魔術師」の姿に、ピクシーは驚愕する。
それと同時に、オーシア側が寄越した監視役が彼であることにも気付く。

「なるほど、あんた達か、連合軍本部側の監視役は」
「安心しろ、赤いツバメの隣に座っているそこの坊や同様、こっちは監視する気なんか欠片もないさ」
「……礼を言う気はないが、壮絶なミスキャストをやらかしたオーシア軍上層部のカス連中に感謝するしかないな。……そういえばブービーはどうした?」

当時のウィザード13、ジャック・バートレットの姿が見えず、ピクシーは思わずジョシュアに聞く。

「アイツか? この間、アイツが前にいた隊の隊長を思わず殴ってな、お咎め無しと引き換えに奪い返されてしまったよ。ま、2代目はすぐに見つかったがな」

この一言でその一件を思い出したのか、アンソニーと2代目ウィザード13以外のウィザード、ソーサラー両隊員は笑い出した。
PJは「なんか面白そうなのが来たな」、デトレフは「やかましいのが増えたか」と感じる。
その言葉を聞き、ピクシーはバートレットの後釜の姿を探す。
しかし、見つけた直後に、未莱が声をあげた。

「あら? ウィッチーが一人混ざってるわよ」

未莱のこの一言に、2代目ウィザード13が顔をしかめる。
ジョシュアの方は未莱を見て、彼女がサイファーだと確信した。

「紹介が遅れたな、俺はオーシア国防空軍第8航空団第32戦闘飛行隊、「ウィザード隊」隊長、ジョシュア・ブリストー大尉。TACネームはルーカンだ。よろしくな、サイファー」
「知っているかもしれないけど、ウスティオ空軍第6航空師団第66戦闘飛行隊、「ガルム隊」隊長、ミラ・アリマ中尉。TACネームはサイファーよ。こちらこそよろしくね」

これを皮切りに、ウィザード隊の残りとソーサラー隊、そしてニカノールが未莱たちに自己紹介する。
しかし、2代目ウィザード13だけはしかめっ面を崩さず、自己紹介しなかった。
どうやらさっきの未莱の一言が気に障った様である。

「どうやら相棒に「ウィッチー」って言われたのが癪に障ったみたいだな」
「こいつは元々気難しくてな。懐いてくれたら可愛いところをとことん見せてくれるんだが」

ピクシーとジョシュアの会話を聞きながら、未莱はディレクタス・コートレットを切り分け、口に運びながらジンを飲んでいた。
コップに入れた分を飲み干し、次の分を注ごうと手を伸ばそうとした矢先に、誰かが背後からいきなりビンを手に取る。
未莱が振り向くと、後ろに長髪の美人がいた。
その美人は、どうも未莱のことを知っているようである。
そして、未莱の方も彼の声を聞いて誰かを思い出す。

「飲むなとは言わないけど、飲む量は控えて欲しいな、未莱」
「その声……。ちさとちゃん?」
「思い出してくれたか」

「ちさと」と呼ばれた男は、未莱の両脇に手をやりそのまま持ち上げる。
彼は昔、まだ赤ん坊だった頃の未莱をこうやってあやしたのだ。

「ち、ちさとちゃん!?」
「あれからマジで10年も経ったんだよな。大きくなったな……」

感慨深げに、しみじみと呟く「ちさと」。
そんな彼に、ピクシーが話しかける。

「センリ、お前相棒のこと知ってるのか?」
「知ってるも何も……従妹だ」

ITOKO??
ピクシーだけでなく、その場にいた全員が一気に固まる。
センリ……大山千里の一言に。
その中で、ロト隊の面子だけがすました顔でそれを見ていた。
そして、デトレフが鼻で笑うかのごとく言う。

「アルヴィトセンリ殿下……。まさか貴方も傭兵になっていたとは」
「……未莱だけじゃなくて俺のベルカ人名も知ってたのか」
「弟君であるヴェールヴィント公子殿下とは違って、ポーラルリヒト公女殿下は自分と家族の存在を隠そうとしない方でした。貴方もベルカでは有名人ですよ」

デトレフの言葉に、千里はただ笑うしかなかった。
一方の未莱は、ピクシーに問い質す。
何故、自分の従妹と妙に親しそうだったのかを。

「ピクシー、ちさとちゃんの事を知ってるの?」
「日本にエアショーを見に行った時に偶然知り合ってな。イーグルの事で意気投合して、気がついたら友達になってた。確かアイツがアイドルやってた頃の話だな。で、しばらくしていきなり国外逃亡を手伝ってくれ、って泣きつかれた」
「あの頃、女装がバレて引退する羽目になった挙句、命を狙われたこともあったのよ。伯母さんたちはちさとちゃんの身の安全を優先して信頼できる人に逃がしてもらった、って言ってたけど、まさかピクシーだったなんて……」

お互いの千里との意外な繋がりに、二人はただため息をつくしかなかった。
一方のPJは、隣に座っているデトレフに楽しそうに話しかける。

「何か楽しそうになってきましたね」
「楽しそうになるかどうかは分からないが、少なくとも昨日より喧しくなるのは確かだな」





4月24日、オーレッド湾、ファトゥーロ運河。
今回の作戦内容は、ファトゥーロ運河確保。
「ゲルニコス」、「ラウンドハンマー」、「コスナー」の3つの局地作戦による波状攻撃と、第3艦隊護衛が任務である「戦域攻勢作戦計画4101号」。
航空部隊の一部と地上戦力を対象とするゲルニコス作戦には、機体の空戦能力も重要なことからF-15Cに乗るピクシーが。
地上戦力の残りと敵艦隊を相手にするラウンドハンマー作戦には、攻撃機としての顔も持つF-16Cに乗るPJが。
只管敵航空部隊の本隊を迎え撃つコスナー作戦には、常識外れな機動が可能であるF-15S/MTDに乗る未莱がそれぞれ割り当てられた。


1140時、ゲルニコス作戦。
ピクシーのF-15Cと千里のF-15Nは、ソーサラー隊のF-15ACTIVEの八機編隊と共に、運河に向かって飛んでいる。
ピクシーが視線を海上の方に移すと、ケストレルを中心とした第3艦隊の姿が目に入った。
よく見ると、ケストレル以外は所々にロト隊の奇襲で受けた弾痕が確認できる。
流石に弾が掠った痕すら見当たらないケストレルを見て、ピクシーは首をかしげる。

「流石に不自然すぎるな。あれだけデカイ的がどうして無傷ですんだんだ?」
「噂じゃ、艦長と操舵手の二人は数分後の未来が見えるから、それを利用して敵の攻撃を先読みして舵を切っているらしい」
「超能力ってやつか? というか親友、お前そういうの信じてんのか?」
「以前、あの二人の下にいた奴から聞いた話だ。とにかくお堅い奴だったから、たぶんウソや冗談じゃないと思う」

海面を進むケストレルを見ながら、ピクシーと千里は加速。
あっという間に運河に到着し、それと同時にレーダーを確認する
レーダーの画像が若干乱れだす。
それを見た二人は、ジャマーの存在を確信した。
アンソニーもそれに気付いたらしく、二人に通信で呼びかける。

「ソーサラー1より、ガルム2とガールボーイ1。俺たちが援護するからジャマーを頼む」
『OK』
「感謝する」

F-15CとF-15Nの二機が、地上のジャマー目掛けて急降下。
それに合わせる様にソーサラー隊も高度を下げて加速。
機銃掃射により、4基のジャマーは瞬く間に全滅。
攻撃を開始しようとしたAAガン、SAM、そして装甲車もソーサラー隊が一気に投下した気化爆弾で残らず地面を転がる。
アンソニーがキャノピー越しに対岸を見ると、向こうでも火柱が大量に上がっていた。

「向こうも派手にやっているな」
「そうだな。……パーマー、空飛ぶ第二陣さんたちが来たぜ」

前方と北東の方角から、敵航空部隊の先陣と思われる数機が飛んでくる。
2機のJ35JがAAMを放つがピクシーはそれを楽にかわし、旋回して後ろに回りこみ、AAMを発射。
1機がそれでエンジンを吹き飛ばされ、パイロットが脱出する間も無く砕け散る。
残る1機も、千里のガンアタックでコックピットを抉られ、力なく海上へと堕ちていった。

「ナイスキル、親友」
「そっちこそ。にしても、今のドラケン乗りども、エスパーダ1とは違って動きがなってなかったな」
「あっちの方が異常すぎるのさ」

浮かれる二人を狙い、後方からX-29Aがロックオンするが、真横から加速してきたアンソニーのF-15ACTIVEのAAMが横っ腹に直撃。
パイロットは大慌てでベイルアウトした。
アンソニーは、無線越しに二人を注意する。

「ガルム2とガールボーイ1、浮かれるのは作戦終了後にしてくれ」
『ウィルコ』



1200時、ラウンドハンマー作戦。
PJのF-16の隣を、ニカノールのSu-32が悠々と飛んでいる。
しかも、ビンセントが同乗していた。
流石に心配になったのか、PJが話しかける。

「こちらガルム3。ビンセントさん、大丈夫ですか?」
「ニュースの天才よりガルム3、俺は全然大丈夫だぞ」

Su-32は、設計の時点でコックピットが与圧式になっているため、一定の高度までなら超兵士でなくとも酸素マスクをつける必要がないのだ。
てか、与圧式じゃないとトイレに簡易キッチン、洗面台とか付けられんし。
またコックピットは、自動車よろしく並列複座式という極めて珍妙な構造であるため、機首は(オーレリア人の間で)「カモノハシ」と呼ばれるほどの恰幅ある特徴的で愛嬌のある形状となっている。

PJの通信に、気楽に返すビンセント。
操縦しているニカノールも通信で気楽な言葉をかける。

「ポチョムキンよりガルム3、この機体は非常に快適な構造になっていてね、飛行服とヘルメットを着用していれば素人でも全然問題はないのだよ」
「ガルム3了解。二人とも、死なないでくださいよ。俺、そんなの嫌ですから」

こう言い残し、PJは愛機を加速させる。

F-15とは対照的に、F-16は当時の当時の新技術を可能な限り詰め込んだ上で構造を単純化し、小型軽量に仕上げたことで低コスト高稼働化を実現。
それにより高い対地攻撃能力と低速低高度での高機動を実現した。

地上戦力はニカノールのSu-32に任せ、PJは敵艦隊に標準を合わせる。
今回の作戦のためにわざわざ対艦ミサイルを調達してもらい、装備したのだ(エスコン豆知識、実際のF-16は対艦ミサイル装備可能です)。
敵艦隊に全発打ち込まないと、仕入れてくれたあの爺さんに申し訳がたたない。
オーレッド湾の水面を切り裂き、極低空かつ音速スレスレで敵艦隊に接近、イージス艦目掛けていきなり対艦ミサイルを発射する。
対艦ミサイルがSAMに直撃し、派手な火柱が上がった。
そして上昇するのと同時に、PJは機銃のトリガーを引く。

「なるべく戦力は削りたいんでね、死んだ後で恨み言は聞くから大人しく食らってくれよ!」

F-16Cから発射された機銃が、容赦なくブリッジを抉り抜く。
あっと言う間に中にいたクルーたちが肉塊と血飛沫に変わり果てる。

「よっしゃ、ついでにもう一発!」

HUDの先に見える巡洋艦にロックオンして、またもや対艦ミサイルを発射。
今度はブリッジの下に直撃。
火薬庫でも貫通したのか、PJのF-16Cが通り過ぎた直後にブリッジ自体が吹き飛ぶほどの爆発が起きた。

「平和のために飛んで、敵を殺して何万ガロンの血を撒き散らすなんて真似、隊長たちにだけ背負わせてたまるか! だから俺は平和のために飛ぶ! サイファーが流す血も、ピクシーが流す血も命がけで止めてやる!!」

数分後、全滅とはいかなかったが、PJが狙った艦隊は壊滅的打撃を被った。
自分の戦果に気分上々なPJだったが、いきなりのミサイルアラートに我に帰る。
目の前に迫っていたAAMを水面ギリギリまで降下して回避したPJが見たのは、2機編制の黄色いSu-37であった。

「そういえば、ココは南部戦線だったっけ。にしても、まさかゲルプ隊にまた出くわすなんて!」
「また会ったね、はぐれガラス君」

思わず舌打ちするPJに通信越しに話しかけるゲルプ2、ライナー・アルトマン。
別任務でクロウ隊の本隊から離れていた間、PJは幾度と無くゲルプ隊と遭遇し、善戦していたのだ。
当のPJは完全に嫌気がさしていたらしく、ライナーの声を聞いてげんなりする。

「こっちは全然嬉しくないけどね!」
「戦争である以上、そう言われると思ったよ」

必死にライナーの攻撃をかわすPJ。
そこに、突然ミサイルアラートがなる。
そして前方の、更に上の高度にいるゲルプ1の機体のエンジンノズルと、こちらに向かってくるAAM2発を確認し、慌てて操縦桿を引く。

「うおおおおおおっ!!」

インテーク下数mmと言うギリギリのところでAAMをかわすPJ。
直後に何かを抉る音と、ガラスが割れるような音が耳元に響く。
横を向くと、風貌にヒビが入り、機体に規則的な穴が空いていた。
ライナーの機体が、上昇の隙を突いて追い抜きざまに機銃を発射したのである。

「ゲルプ1よりクロウ3、これが私たちの力だ。その機体では私たちには抗し切れない。覚えておきたまえ」

ゲルプ1、オルベルト・イェーガーの台詞の直後に、ゲルプ隊の2機は悠々と戦線を離脱していった。
地上戦力をなぎ払い、合流してきたニカノールは、穴が開けられ黒煙を吹いているPJのF-16を見て、慌てて通信を入れる。

「ガルム3! まだ飛べるか!?」
「こちらガルム3。飛行は可能ですが、戦闘は無理と判断。離脱します」

力なく答え、PJは機体に負担がかからないように旋回させる。
作戦は成功したが、PJが受けたダメージは大きかった。
一方、現在航行中のケストレルのブリッジ。
ウィーカー艦長と、操舵手のニコラス少佐がさっきの通信を聞いているところであった。

「アンダーセンさん、とうとうあの坊やが被弾したようだ」
「相手は番のカワウ。今まで避け切れていたのが不思議です。ところで艦長、あと少しでコスナー作戦が始まります」

後ろを向くことなく、ニコラス少佐は話題を切り替える。
今は作戦中であり、私語は慎むべき。
ニコラス艦長の言葉にはそういった意味が暗に含まれており、ウィーカーもそれに気付く。

「そうだな……。コスナー作戦にはガルム1の他にウィザード隊も出るそうだが……。『スピーカー・ブービー』抜きで大丈夫なのか?」
「ブービーがいたから優れていたのではなく、優れているからこそ今までブービーを従わせる事が出来たのです。それに、後釜であるあの子がいます。どっしりと構えていてください」
「それも、そうだな……」



1220時、コスナー作戦。
未莱のF-15S/MTDに併走するように、ウィザード隊の13機が戦意を纏いながら飛ぶ。
その13機は、よく見ると全部「お情け」で採用された機体ばかりであった。
それに気付いた未莱は、失礼を承知の上でジョシュアに話しかける。

「採用トライアルで負けたブラックウィドーIIとX-32に、開発中止になったはずのX-44、最後の一機は「パイロットキラー」のX-31じゃない」
「オーシア空軍最強部隊の実情、という奴だ。真面目なしっかり者は分遣隊のソーサラー隊に、俺みたいな問題児たちは曰く付きに乗せられる本隊、と相場が決まっているのさ」

ジョシュアが気楽に返した直後、X-31に乗っているウィザード13の通信が入る。

「隊長、レーダーに敵反応。指示をお願いします」
「お前は固いな……。まあいい。各機散開! ウィザード13、お前は危なっかしいからサイファーについて行け」

各隊員が『了解!』と復唱し、一斉に散開。
X-31だけはF-15S/MTDの斜め横につき、水面を衝撃波で切り裂きながら低空飛行する。
落とせるものなら落として見せな、と言わんばかりの飛び方にプライドをくすぐられたのか、腕に覚えがある奴らが我こそはと未莱たちに襲い掛かった。

一番手は、マルクス・シュスター。

「グリューンとインディゴを落とした隊の1番機……。私が貴様を落とせば、その功績を手土産に、幼稚園に入ったばかりのあの娘にプロポーズできる!」

かなり不穏当なセリフを叫びながら、シュスターのF-15Cが未莱たちに迫る。
これには未莱だけでなく、ウィザード13にもおぞ気が走った。
気迫のこもったガンアタックをかわし、未莱は殺気を剥き出しにしてシュスターの背後を取る。

「変態! ロリコン! このペド!! ここからいなくなれぇ!!」

容赦なく放ったAAMがものの見事にシュスターのF-15Cの胴体、それもミサイルのハードポイントに直撃。
いつも以上の派手な爆発と共に、シュスターのF-15Cは見事に砕けて散った。
その際、シュスターがあげた断末魔に、未莱とウィザード13はひたすら呆れ果てることに、それを見たベルカ側の他のパイロットたちは絶叫を上げることとなる。

「アメリア―――――――――!!」
『ああ! だからプロポーズは最低でも10年後にしろと言ったんだ―――――――!』

「……あんなのに好かれてたなんて、そのアメリアって子、凄く可哀相……」
「大尉に同意せざるを得ません……」

一気にやる気を削がれた未莱は、いきなりなったミサイルアラートに気付き、すぐに回避機動を取る。
戦争は、どちらか片方がやる気を失くせば終わるものではないのだ。
仕方なく自分を奮い立たせ、機動をすぐに立て直す。
未莱のF-15S/MTDはいとも簡単にポストラー2の背後を取る。
それに驚愕するポストラー2に、未莱は容赦ない一言を浴びせた。

「き、機体の性能差だとでも言うのか!?」
「乗り手の腕もこっちの方が上よ♪」

機銃であっと言う間に主翼を蜂の巣にされ、ポストラー2のSu-27が失速する。

「ああ、クラウスのシュラーヴリクが落とされた!」
「ポストラー2、イジェクト! 兄者、後は頼んだー!!」

ポストラー2が脱出した直後、Su-27はコントロールを失いすぐに海面に激突、そのままバラバラになる。
一方、ウィザード13を狙っている他の機体は、彼女が駆るX-31の無茶苦茶な機動に頭の方が追いつけていないようであった。
敵機が自分に翻弄される様を見て、気分が良くなったのかウィザード13は微笑む。

「私のX-31は堕ちない……」

マッハ1を維持したままスプリットSを披露して、F-18Cの正面に肉薄。
X-31から発射されたAAMが直撃し、F-18Cの機首が炎と共に吹き飛ぶ。
この調子で狙った敵機を次々と落とすウィザード13。
が、突如としてアラートメッセージがHUDに表示される。
調子に乗りすぎて、レーダーにもう一機表示されていることに気付かず、F-5Eに背後をつかれてしまう。
F-5Eのパイロットは、そのままトリガーを引こうとするも、叶わなかった。
ミサイルアラートがなった直後に機体に轟音が響いたから。
自分が落とされたことを悟り、パイロットは脱出準備を終えた直後に呟いた。

「待っていてくれ、仇は何が何でも取ってやるからな……。ガーベル2、イジェクト!」

ガーベル2が脱出した直後に、F-5Eは空中で爆発する。
撃ち落した張本人である未莱がそれを見届けた直後、イーグルアイから作戦完了の知らせが入った。

「イーグルアイより任務に当たった各機、敵航空戦力の全滅を確認。尚、旗艦ケストレルの艦長からお礼の言葉を言いたいと言われたので中継する」
「こちらケストレル艦長、ウィーカーだ。わが艦隊は前日の奇襲の際に受けた損害のため無傷とは行かなかったが、無事に運河を通過することが出来た。航空部隊の諸君に感謝する。ところでガルム1、この戦争が終わったら、ケストレルに引っ越さないか?」

お礼の言葉の直後に発せられた、サイファーへの転属のお誘いに、イーグルアイだけでなく作戦に参加した全機が唖然となる。
「こいつ、何言ってるんだ!?」と言わんばかりの表情で。
無論、サイファーはそのお誘いに乗るつもりは毛頭無かった。

「一昨日来やがれですわ~」

この一言を浴びせ、未莱はすぐに踵を返し、基地のある方向へと飛んでいってしまった。
これに驚いたウィーカー艦長は呼び止めようとするも、イーグルアイに釘を刺されて黙る羽目になる。

「イーグルアイよりウィーカー艦長、ヘッドハンティングは謹んで欲しい」



近くの野戦基地へと飛ぶ中、ウィザード13は通信越しに未莱に話しかける。

「先ほどは……ありがとうございました。ですが、何故私を助けたのですか? 一人だけ無礼な態度をとっていた私を……」
「一緒に戦った仲間だもん。落とされそうになったら助けるのが当たり前じゃない」

未莱は、仲間は仲間、共に戦い続ければいずれはわだかまりは消え去る、と考えている。
そんな未莱の言葉に、ハッとなるウィザード13。
まだ潮の香りが含まれる風を切り裂きながら2機が飛ぶ中、ウィザード13は顔を赤らめながら口を開く。

「ジャコビニ……、ミーティア・ジャコビニ。それが私の名前です……」
「綺麗な名前ね……。では改めて……、私はミラ・アリマ。ベルカ人名はミラーフリスト・アリマ・フォン・シュヴァンシュタイン・ベルカ、って言うらしいわ。これからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします、姐(あね)様」

ミーティアの最後の一言にかすかなおぞ気を感じながらも、仲間と仲良くなれたことが素直に嬉しい未莱であった。



数時間後、ヴァレー空軍基地のハンガー。
ものの見事に風穴が開けられ、風防の左側に大きな亀裂が走ったF-16Cがその姿を晒していた。
悔しげな表情で愛機を見るPJの隣には、未莱とピクシーがいる。

「これ、修理は可能なのか?」
「時間をかければ出来るそうですが……」
「次の作戦がいつあるか分からん。別の機体を調達した方がいい」

ピクシーの一言を言い返せず、うな垂れるだけのPJ。
見かねた未莱は、彼の腰を叩き、元気付ける。

「いつまでも落ち込んでいる暇は無いわよ。この子の仇討ちをしないといけないんだから」
「はい。でも、それには機体の調達が必要ですね」
「それなら大丈夫。ちょうど一機だけ乗り手日照りのイーグルがあったから、それを買っておいたわ」

そう言って、未莱はピクシーとPJを連れて別のハンガーへと向かう。
未莱が扉を開け、そこにあった機体がその姿を見せた。
それは、F-15E。
そのF-15Eは、クリーム色に塗られ、くちなし色とくるみ色の2種類のラインが走っていた。

「攻撃機としてもファイティングファルコンの上を行く機体よ。これぐらいの機体じゃないと、ゲルプ隊には勝てないわ。隊長命令よ、あの子に風穴開けたゲルプ2の大バカを、この子で叩き落してあげなさい!」
「はい!!」

それを見て一安心したのか、ピクシーはボソッと呟いた。

「……思ったよりも早く、イーグルで統一されたな。これでガルム隊も安泰だな」





再び2005年8月、ガルム隊記念公園。

「で、ディレクタスが解放された後、修理のために工廠に送ったんですけど、復興やら軍の立て直しやらで何度も修理が先延ばしになって、ようやく修理が終わったのが年明けから2ヵ月後。
俺の手元に戻ってきたのがそれから更に1ヵ月後ですよ」

「これ初めて聞いた時は笑い過ぎで呼吸困難になったな」
「そん時、カッとなって殴って、それで大喧嘩になってサイファーにまとめて怒られましたね」
“そう言えば、フォルクさんは現在、統一ユージア軍に所属していると聞きましたが”
「……ああ。
ノースポイントで旅行ガイドブック用の写真を撮る仕事を受けて、契約を終えた直後に大陸戦争が起きたんだ。
で、相棒並みに凄いパイロットが一人いたんで、好奇心でそのままISAFと契約して従軍カメラマンになって……。
戦争が終わった後、パイの奪い合いを通り越して、国境をめぐる内ゲバが起きたんだ。
それ見て何かが切れたんだろうな、気がついたらある国の義勇兵になって、それからしばらくして、リボン付きの嬢ちゃんと13番と手を組んで『統一ユージア軍』なんて大仰なものを立ち上げ、今に至る」

“嬢ちゃん……? メビウス1は女性なのですか!?”
「……あー、ここから先は機密のためお教えするわけには行きません。後、さっきのアレ、カットしてくれよ」
「詰めが甘いなぁ」
“ベケットさん、今気付いたのですが、F-16CとF-15Eは何処に展示されているのですか?
展示されていることは人づてに聞いたので知っていましたが、公園内の何処で展示されているかまでは聞くのを忘れていたので……”
「あの2機? ホラ、あそこに博物館があるでしょ。
そこに稼働可能な状態で展示してあるんです。
何かあったとき、出撃できるように。
ウスティオは『円卓』を抱えているから、いつ何が起きても不思議じゃないんです」

“未だに円卓の鉱山資源を横取りしようと狙う連中がいるんですね”
「そういうことッス」
「浜の真砂が尽きるとも、人間いる限り世に戦の狼煙は昇り続ける。
頭痛くなってきた……」


ガルム隊の隊員として、サイファーと共に飛び続けた2人。
戦いの中に身を置いている妖精、ラリー・フォルク。
いつ起きるか分からない新たな戦いに備え続けている理想主義者、パトリック・ジェームズ・ベケット。
どうも2人とも戦争の女神様に憑かれているようだ。
ピクシーには悪いが、例のアレはノーカットで流すか。
次の取材先は、オーシアの西の果て、サンド島。
スピーカー・ブービーは元気だろうか?



スピーカー・ブービー。
正しいTACネームは「ハートブレイク・ワン」。
戦争は一期一会、アイツと組むときは気をつけろ。
飛行機騒音なんてメじゃないぞ。
次回、「蒼天に舞う希望~アイツはハートブレイク・ワン~」。
ジャック・バートレットは歩く騒音公害。
失聴、幻聴、御用心。

theme : 二次創作
genre : 小説・文学

2008-11-08

第3作戦「円卓~サイファー対ストルツ~」

デトレフ・フレイジャー
ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊「ロト隊」隊長。
TACネームはストルツ。
当時の階級は少佐。
その容姿と実力を逆手に取り、軍に自分を利用させた男。
天然ボケを武器に一代で民衆の心を掴んだフレイジャー議員の末子だが、兄たちとは違って「私は父のようにはならない」が口癖だった。
戦争に対する考え方と、かつての友人であるラリーが義両親の心配をよそに金のために傭兵として空を飛んでいたという事実から、傭兵を非常に嫌っている。
ふとした偶然でサイファーの正体を知り、紆余曲折の末に自らの意思で捕虜となり、陰で彼女を支え続けた。
戦後は他のベルカ出身の「エインフェリアの会」会員同様、予備役になり、ディンズマルク大学に講師として就職。
現在は同大学で、歴史学の教授になっている。
ミラーフリスト殿下への忠誠心は極めて強く、エインフェリアの会の事実上の管制官役を任されている。

2005年、ディンスマルク大学。

「殿下ほどではないが、君はいい目をしているな。
マタキチ・アクトクとか言う奴とは大違いだ」

“彼をご存知なんですか?”
「一足先に、サイファー……、殿下について知っていることはないかと取材しに来たよ。
即行で門前払いしたがね。
殴りたくなるのを必死で我慢してやったよ。
金だけのために、ゴシップを書き続ける悪党の取材なんか誰が受けるものか」

“我々の間でも、評判は最悪ですから”
「やはりな……。
話を本題に移そう。
あの頃の私は誇りに満ちていた。
戦争とは、互いの国の人間同士の誇りを賭けた戦いだ。
だから、私は金以外に背負うものがない傭兵が嫌いだ。
たとえ、人としては素晴らしいとしても。
旧友が傭兵になったのも大きいがな」

“ラリー・フォルクのことですね?”
「そうだ。
20年前ぐらい前になるかな、奴は、御義両親の周囲に群がる財政界と軍の極右派への反発からを家を飛び出した。
奴の家の名誉のために言っておくが、御義両親はむしろ穏健派だった」

“彼がウスティオ側についたと知った際、相当怒り狂ったそうですが?”
「……おじさんたちを散々心配させ、挙句の果てに祖国に牙を剥いたんだ。
私が怒り狂ったのも当然だ」

“それが何故、捕虜に?”
「少し、長くなるぞ?」


第3作戦「円卓~サイファー対ストルツ~」

1995年、4月17日、B7R。
通称、『円卓』。
ベルカ戦争の発端となった大量の鉱山資源が眠る山脈。
薄い雲が通り過ぎ、ウスティオ特有の涼風が吹き荒れていた。
鉱山資源が生み出す磁場のせいで、円卓一帯は電波障害が頻発する。
ガルム隊の二機が、そこを飛んでいた。
すぐ隣を飛ぶピクシーに、未莱は心配そうに話しかけた。

「あご、まだ痛い?」
「……イーグルアイのアッパーが綺麗に決まったからな。帰ったらもう一回診てもらわんと」

昨日の朝、未莱が寝ぼけて部屋を出たのが原因で、ピクシーは袋叩きにされたのだ。
理由は簡単。
未莱はその時、全裸だったから。
たまたま近くを通りかかっていたイーグルアイがそれを見てしまい、絶叫。
駆けつけたゴリアス大佐やクロウ隊、ヴァイパー・キッチン隊のみんなまで見てしまい、そろってピクシーが未莱に手を出したと誤解。
結果、ピクシーは袋叩きの憂き目に遭う。
その後、未莱が必死で事情を説明したため疑いは晴れたものの、抱き枕代わりにしたのがネックとなり、単独での円卓強行偵察を厳命されたのである。
もっとも、すぐに未莱が突っかかってきたため、未莱も強行偵察に参加することとなった。

「……やっぱ、下着くらいは着せた方が良かったな」
「ヘう……」

自分の方にも原因があるため、未莱はへこんだ。
まだ、敵機の反応は無い。
そして数十秒後、イーグルアイが敵機をレーダーで捕捉した。

「イーグルアイよりガルム隊、敵部隊の反応を確認。撤収許可が出るまで応戦せよ」
『了解』

円卓にミサイル雲が出始めた頃、一機の攻撃機が戦闘空域に近づきつつあった。
攻撃機兼高等練習機として開発されたGR Mk.1の高出力バージョン、ジャギュア・インターナショナルである。
この機体は練習機としては高価なため、ベルカ空軍で訓練飛行時に乗れるのは、一握りのエリートやエースのみなのだ。
配備事情の都合上、特定のエース部隊の専用カラーに塗装されるだけでなく、戦闘機の機動が出来るように改造されることもある。
今飛んでいるのは、灰色の胴体に赤い機首、ロト隊隊長用機。
ウスティオの涼風を切り裂き、ジャギュア・インターナショナルが飛んでいる。

「単独訓練中に敵部隊がB7Rに進入するとはな。敵機数は、2機。……ラリーとアジャイル・イーグルか!」

たまたま部隊の乗機が全機定期点検中の上、部下たちが休暇を利用して基地から離れていたため、円卓で単独訓練飛行と洒落込んだのである。
『赤いツバメ』、デトレフ・フレイジャーは、神にホンの少しだけ感謝した。
旧き友と、その相棒を撃ち落す機会を与えてくれたことに。

「気まぐれとは言え、実弾を積んでいて正解だったな。待っていろ、ラリー。叩き落して小父さんと小母さんのところに突き出してやる!

それから数分後、ガルム隊が巡回中の敵部隊を壊滅させ、偵察任務に戻ろうとした矢先であった。
イーグルアイが、敵機の反応を捉えたのである。
司令部からの撤収許可はまだ出ていない。
イーグルアイはそのまま声を出す。

「イーグルアイよりガルム隊、敵機が接近中。数は一機」
『一機だけ!?』
「まだ撤収許可は出ていない。応戦せよ」

ピクシーは「まだかよ」といった表情で、未莱は初陣の時と同じ冷たい表情で、イーグルアイの指令を聞く。
幸い、両方とも乗機の銃弾とミサイルは十分残っていた。
徐々に近づく、敵機のマークに一度だけ視線を移し、同時に復唱する。

『了解』
「サイファー、もしピクシーが落とされたら、迷わず……」
「ネガティブ。それ以上言ったら先にあなたを落とすわよ、イーグルアイ」

殺気のこもった声でイーグルアイを黙らせる未莱。
イーグルアイは、未莱の殺気に硬直する。
2回しか実戦を経験していない新人が放つ物とは思えない殺気。
そして、ピクシーはそのやり取りを聞いて笑い出した。

「ブハハハハハ! 相棒の逆鱗に触れてやんの」
「薄情者のイーグルアイなんか放っておいて、近づいてる一機に集中するわよ」
「ガルム2了解。それでこそ相棒だ」

ガルム隊の二機は加速。
二機とも速度をマッハ2にする。
しばらくして、二人は機影を確認した。

「アレはジャギュアじゃないか」
「練習機でこの円卓に来るなんて、物好きもいたものね」

思わず拍子抜けした二人だが、ミサイルアラートで現実に引き戻された。
ジャギュア・インターナショナルがXLAAを発射したのである。
危うくヘッドショットになる寸前に、二人は急下降し、XLAAを回避。
円卓に、ミサイル雲が新たに二本書き起こされた。

「練習機がなんでXLAA積んでんだよ!」
「積めるように改造してあるだけだ」

ピクシーの愚痴に、未莱ではなくジャギュアのパイロットが答える。
ピクシーはパイロットの声に聞き覚えがあった。
小中高、12年間ずっと聞き続け、実家を飛び出したあの日から聞かなかった腐れ縁のあの男の声。

「その声、デトレフか!?」
「久しぶりだな、ラリー!!」

改造の結果、攻撃機離れした機動を見せるジャギュア・インターナショナル。
その機動に焦りつつも、ピクシーはF-15を急旋回させる。
その隙を突き、デトレフは機銃のトリガーを引こうとして……、キャノピーに亀裂が走り動揺した。

「何だと!?」
「ち、狙いが甘かったわ」

デトレフが、ピクシーに気をとられている間に、未莱が真横からコックピットに狙いを定めて機銃を発射したのだ。
幸か不幸か、キャノピー正面を弾が掠っただけであったが。
今度こそは、と再びロックオンした直後、イーグルアイからの通信が入った。

「イーグルアイよりガルム隊、司令部から撤退許可が出た。帰還せよ。繰り返す、帰還せよ」

やっと出た撤退許可に、ピクシーは安堵しながら、未莱は少し不満げに機体をヴァレー空軍基地の方に向け、アフターバーナーを吹かした。
無論、それを見たデトレフは怒号を上げる。

「待て!」
「待てといわれて待つバカはいないわよ」
「そういうことだ。じゃあな、親父と御袋によろしく言っといてくれや」

マッハ2以上の速度を出し、ガルム隊はあっさりと円卓を後にする。
戦闘機レベルの機動は出来るように改造されてはいるが、あくまでも「それだけ」に過ぎず、F-15以上の速度は出せない。
一方、悔しさで歯軋りしているデトレフに、基地から通信が入った。

「おのれ、あのアジャイル・イーグルめ!」
「ストルツ、敵部隊は撤退した。帰還せよ。ところで、機体にどこか異常はあるか?」
「キャノピーに亀裂が生じたが、それ以外の異常は無い。帰還する。……しかし、私を残していきなり撤退するとは……。連合軍め、あの2機をルアー代わりにしたか」




ヴァレー空軍基地、医務室前の廊下。
据え置きのソファーに座り、ピクシーが出てくるのを待ちながら、連合軍本部からの通信内容を思い出した未莱は憤慨していた。

「私が同行するのに、ゴリアス司令とイーグルアイが最後まで渋った理由が分かったわ……。まさか囮役だったとわね」

廊下を通る者はいない。
未莱の愚痴が廊下で小さく反響する。
ぶつくさ言っていると、ちょうどピクシーが出てきた。
機嫌が悪そうな相棒の姿が気になったのか、ピクシーは何があったのかを問いかける。

「どうした? 連合軍本部からのアレにまだ怒ってるのか?」
「当たり。向こうは何考えてるのかしら……」
「さあな。エスパーダ隊の頭の中ほどじゃないが、知りたくないな。……相棒、俺、生きてるか?

未莱の隣に座り、不意に自分が生きているか尋ねるピクシー。
ピクシーの右手を包むように、自分の両手で掴み、彼の側に寄りかかってから未莱は答えた。

「生きているわよ。死んだ人の手は固くて冷たいけど、あなたの手は柔らかくて暖かいから」
「……ありがとな」

改めて、未莱が相棒でよかったと実感するピクシーであった。
同時に、何故か2日前の夜、素っ裸の彼女を抱き枕代わりにした事も思い出す。
「ちゅっちゅぐらい、してやってもよかったかな?」などと考えるピクシーでもあった……。




次の日。
訓練飛行の予定も客が来る予定も皆無、更に快晴なので滑走路のど真ん中で甲羅干し中の愛機の隣で、未莱は焼酎を飲んでいた。
ご丁寧に、ビーチチェアに寝そべり、ラジオ番組を聴きながら。

「アレからお呼ばれなし……。人に囮させといて、何手間取ってんのかしら。このまま寝ちゃおっと」

焼酎を飲み干し、ラジオのスイッチを切ってから、未莱はそのまま寝てしまった。
数時間後、PJにたたき起こされた時には、既に日は大きく沈んでおり、F-15S/MTDも滑走路奥のハンガーに戻った後。
同時に未莱はPJが深刻な表情をしていることに気付く。

「PJ、どうしたの? 空襲?」
「遥かにマシだけど……、悪い知らせだよ。サイファーたちが囮になってる間に動いていた例の部隊、奇襲を受けたらしい」

PJからもたらされた凶報を聞き、未莱は瞬時に目が覚めた。
PJはなおも続ける。
太陽は更に沈み、空は徐々に黒が広がり始めていた。

「突如現れた敵部隊により、海上部隊の駆逐艦3と空母1隻が撃沈。旗艦、ケストレルの奮戦で何とか撃退したらしいけど……」



数分後、基地司令の部屋。
ゴリアス司令とイーグルアイ、そしてガルム隊の二人がそこにいた。
差し込む夕陽が徐々に弱くなり、室内は暗くなり始めている。
ゴリアス司令が、深刻そうな顔で口を開く。

「PJから聞いただろうが、お前たちが陽動に出ている間に動いていた連合軍の艦隊が奇襲を受けた」
「敵部隊は、迎撃に出たケストレル艦載機の証言から、EF-2000の四機編制であることは分かっている」

イーグルアイの報告に、ピクシーは驚愕し、気付いた。
奇襲部隊の正体に。

「チクショウ! 撃ち落さずに撤退したのが不味かったか!」
「ピクシー、心当たりがあるの?」
「多分、あの艦隊を奇襲したのは、昨日のジャギュア・インターナショナルに乗ってた奴の部隊だ」

未莱の呼びかけで我に帰ったピクシーは、奇襲部隊の正体を、迷うことなく告げる。
ゴリアス司令も、未莱も驚く。
ピクシーは口を開く。
因縁も兼ねた、旧き友人との腐れ縁を呪いながら。

「ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊。通称ロト隊。ベルカ空軍でも、タイフーンの4機編制はこの部隊だけだ」
「思い出した。確かフレイジャー議員の末子が指揮する部隊だったな。ピクシー、そいつのことを知っているのか?」

イーグルアイは、ふとした疑問を口にする。
ピクシーの答えは意外なものであった。

「知ってるも何も、小学校入学から高校卒業までの12年間、学校どころかクラスもずっと同じだった」

この一言に、3人ともあっけに取られ、絶句する。
げに煩わしきは幼き頃からの腐れ縁か。
呆れ果てた未莱は思わずこう言った。

「ひどい腐れ縁ね……」
「ここまで来ると呪いだよ……。相棒、友達は慎重に選べよ」



同日、同時刻、ベルカのとある基地。
ハンガーに、数分前に基地に帰還したロト隊のEF-2000が格納されていく。
その中で、自分の乗機を数秒ほど見つめ、憮然とした顔で司令室へと向かうデトレフの姿があった。

(予想は大当たり。敵に損害を与えることには成功したが……。あの空母、……確か向こうの通信ではケストレルと呼ばれていたな。要注意対象として司令に進言しておかないと)

デトレフは、つい昨日のことを思い出す。
たまたま司令室のある廊下を通った際、ベルンハルトとデミトリの怒号が聞こえ、何事かと気になって聞き耳をたてたのだ。
その会話に、デトレフはただ絶句する。
日本に亡命して行方知れずになったベールヴィント公子の所在を暴露したアングラ雑誌に書かれていた、彼の一人娘の名前が出たのだから。
ミラーフリスト。
確かまだ子供であるはずの彼女が、あろう事か連合軍の一員として戦わされている。
そして、彼女がラリーと組んでいると聞き、あのときのアジャイル・イーグルが彼女であると気付く。
ベルンハルトとデミトリは、その日のうちに隊ごと異動となり、今日の朝方には基地を去った。

(露骨な口封じだな。もっとも、人の口にはそう簡単に戸はたてられないぞ)

昨日のガルム隊の不自然な撤退に首を傾げたデトレフは、彼らの円卓侵入を「陽動」と判断し、他の部隊がそれに紛れている可能性を司令に進言。
結果、オーレッド湾近辺に集結している敵軍の艦隊が発見される。
陽動に成功したことで浮かれている彼らの出鼻をくじくために出撃、ある程度の損害を与えることには成功したものの、艦隊の中で唯一迅速に迎撃態勢をとった空母、ケストレルの猛攻の前に撤収を余儀なくされた。
そして2日後に決行される「第2次ヴァレー空軍基地攻撃」は、何故かロト隊の配置が急遽変更されたが、デトレフは特に気にしなかった。




1995年、4月20日、ヴァレー空軍基地近辺。
円卓を突破し、ウスティオの涼風を切り裂きながら四機のEF-2000が悠々と飛んでいる。
ベルカ空軍、第2航空師団第52戦闘飛行隊。
ロト隊。
乗機はEF-2000。
彼らの任務は敵迎撃部隊の殲滅。
後方には攻撃機で構成された部隊が待機している……、少なくともロト隊はそう考えていた。

「ロト1より各機、魔犬狩りだ、二人ともベイルアウトに追い込む! お前たちはアジャイル・イーグルを撹乱しろ。青いイーグルは私が叩き落す」


一方、敵部隊の接近を早くも感知して出撃したウスティオ空軍第6航空師団は、ガルム隊を先頭に出撃。
レーダーを確認したイーグルアイは、四機だけ突出していることに気付き、首を傾げた。

「妙だな、四機だけ無駄に突出している。イーグルアイよりガルム隊、気をつけろ、嫌な予感がする」

イーグルアイの警告に反応した未莱とピクシーは、自機のレーダーに目を通す。
確かに、四機だけ妙に突出している。
間違いないな、そう心の中で呟くピクシー。

「恐らくこいつらはロト隊だな」
「根拠は?」

未莱から根拠を聞かれ、ピクシーは迷うことなく口を開く。

「勘」
「それだけで十分」

2機はそのままアフターバーナーを発動。
一気に加速して、ロト隊に接近する。
対するロト隊もそれに気付き、加速。
ウスティオの涼風が、乱気流に変わった。

「ラリー、この赤いツバメが決着をつけてやるぞ!」

「アイツ、ほんとに執念深いな」
「ほんと、友達選びは重要ね」

ロト隊のEF-2000が散開、回避行動に移ると見せかけ、隊長機以外が一斉に未莱のF-15S/MTDの周囲を囲うかのような飛び方を始めた。
その無茶苦茶な機動に、未莱は騒然となる。

「な、何なの!?」
人呼んで、『ツバメの藁カゴ』!! ミラーフリスト公女殿下、今しばらくお待ちください。すぐに妖精めを撃ち落してご覧にいれます」

デトレフのこの言葉に、未莱とピクシーは驚く。
しかし、ロト隊の他の隊員たちは動じず、『ツバメの藁カゴ』を崩すこともなかった。

「オイ、何でお前まで相棒のもう一つの名前知ってんだよ! それに何でお前の部下たちは動じていないんだ!?」
「フクロウと藍鷺が、基地司令と言い争いしているのを偶然聞いてしまってな。その時に知ったのさ! そして部下たちには前もってそのことを教えておいた」
「用意周到すぎて只管ムカつくぜ」

得意気に語るデトレフ。
呆れるあまり怒りを覚えるピクシー。
熾烈なドッグファイトをしつつ、二人の舌戦も始まった。
ベルカとエストバキアが共同開発したクロースカップルドデルタ機であるEF-2000は、電子機器による制御により、パイロットに負担をかけることなく高機動を発揮するだけでなく、安定した低速飛行も可能である。
対するオーシア原産であるF-15Cは、当時の新機軸を敢えて排することで信頼性と性能を両立させた。

一方、未莱の方は少し苛立っていた。
ある時は囲むかのような無茶苦茶な機動をとり、またある時は張り付くように自機の両側面と背後に張り付く、『ツバメの藁カゴ』に。

「本当にしつこいわね! ……!!?

何かに勘付いた未莱は、慌てて機体をピッチダウンさせる。
それにつられ、ロト隊の3機もそれに動きを合わせた。
直後、4機の真上をミサイル雲が走る。
何事かと思ったロト4がレーダーを確認すると、味方の部隊からミサイルが接近していた。

「ロ、ロト4よりロト1! み、味方部隊のいる方向からミサイルが来ました!!」
「なんだと!? ロト1より各機、ツバメの藁カゴを解け! 回避に専念しろ!! ストルツよりスウィーニー・トッド、一体どうなっている!!?」

デトレフの呼びかけに対して、ベルカ側の空中管制機、「スウィーニー・トッド」の返事は意外なものであった。

「簡単だ。君たち以外の、この作戦の真の目的は、君たちロト隊の暗殺だ。あしたの朝刊に、「演習飛行中に敵部隊の奇襲を受けロト隊が全滅」の見出しが載る仕組みだ」
「どういうことだ!」
「君たちは殿下を連れ戻し、公王陛下に会わせるつもりだろうが、我々としてはそれは非常に都合が悪いのだよ。故に、上層部は君たちの暗殺を決定した。悪く思うなよ」

嬉々とした表情で説明するスウィーニー・トッド。
それに合わせるかのごとく、後方の部隊が次々と接近してくる。
いずれの部隊も、戦闘機のみで構成されており、爆弾を装備している機は全くなかった。
それを肉眼で確認したデトレフは、唖然とし、元味方部隊の一機に吼える。

「おのれ、それでも公王陛下の臣下か貴様ら!」
「我々にとって、公王陛下は飾りに過ぎない。我々が真に忠誠を誓うはベルカ民主自由党政権だ。……な、いつの間に、ゲヴィアッ!!

突如として、元味方機の通信が途絶える。
よく見ると、一機の戦闘機が火を吹きながら落ちているところであった。
そして、一人のパイロットの声が、通信で敵味方問わず響き渡る。

「穴だらけの作戦だな。どうせなら俺たちが来る前に暗殺してしまえばよかったものを」

そのパイロットが乗る機体、F-15Nは更にもう一機撃ち落す。
それを見た敵部隊の僚機は散開したが、クロウ隊をはじめとする迎撃部隊の前に片っ端から撃ち減らされていく。
残りの敵部隊もそれを見て撤退しようとするが、『ツバメの藁カゴ』に阻まれ、困惑するうちに未莱のF-15S/MTDから発射されたXLAAで空の藻屑となっていった。
レーダーを確認し、次々と味方機が消えていくのを実感させられたスウィーニー・トッドは思わず呟く。

「何故だ、ロト隊暗殺用に編制された部隊がこうも易々と……」
「後先考えずにただ撃ち落せば終わりって考えるから、こうなるんだよ。お前、バカだろ?」
「所詮、公王陛下を飾り呼ばわりする連中などこの程度か」

ピクシーとデトレフの声を聞き、硬直するスウィーニー・トッド。
ピクシーのF-15Cと、デトレフのEF-2000は混乱に乗じて接近。
スウィーニー・トッドの真正面に移動していたのである。
すでに、2機ともスウィーニー・トッドをロックオンしていた。

「どうする?」
「知れたこと。撃ち落すまでだ」

デトレフは分かりきったことを、と言わんばかりに返す。
そして両者同時に機銃のトリガーを引いた。

「それもそうだな。というわけだから大人しく死ね! バーニング!!
「この世界からいなくなれ、スウィーニー・トッド! ユニバース!!

二機の機銃から発射される弾丸の雨が、スウィーニー・トッドの機首を穴だらけにしていく。
あまりの激しさに、やがて機首だけでなく、機内をも貫いていった。
機内の乗員を蜂の巣にされ、スウィーニー・トッドはついに火を吹き始める。
しかし、それでも2機の同時銃撃は終わらない。

「こ、こんな結末、認めてたま……うげあー!!

空中爆発と共に、スウィーニー・トッドの遺言は強制的に打ち切られた。
片羽根の妖精と赤いツバメの即席コンビネーションに、ヴァレー空軍基地の野郎共から歓声が上がる。
嬉しさを隠し切れないのか、イーグルアイの声も妙にハイテンションだ。

「イーグルアイから全機へ、敵暗殺部隊の全滅を確認した。世の中、悪いことは出来ないな。ところでロト隊諸君、これからどうする?」

イーグルアイのこの言葉に、ロト隊一同、ハッとする。
こんなことになった以上、基地に戻るわけにはいかない。
そして、デトレフが出した答えはある意味彼らしかった。

「基地へ戻るわけには行かない、かといって寝返るのは論外。君たちに投降する」

デトレフのこの一言に、みんな安堵する。
そうと決まれば、後は基地へ戻るだけだ。
一応、第六航空師団の各機はロト隊を囲うかのような編隊を組み、ともにヴァレー空軍基地へと帰っていく。
しかし、未莱のF-15S/MTDと、デトレフのEF-2000は他の機よりも後方を飛んでいた。
二人の意図を察したイーグルアイは、ピクシーの残りの機の先導をまかせ、基地へと帰還させる。
それを確認した未莱は、デトレフに呼びかけた。

「それじゃ、円卓での続きをしましょうか?」
「デトレフ・フレイジャー、謹んでお相手いたします」

鷲と台風が、ウスティオの涼風をつむじ風に変えながら、エースのプライドを以って激突する。



約一時間後、ヴァレー空軍基地の滑走路。
ロト隊の4機のEF-2000をバックに、第6航空師団の漢連中と、手錠をつけられたロト隊が集合していた。
それを、オーシアの敏腕記者、ビンセント・ハーリングが今カメラに収めんとしている。
そしてその隣には、合図係の未莱が立っていた。
少しだけ寒気が薄れたウスティオの涼風が吹く中、ビンセントの声と、未莱の合図が響く。

「OK! ロト隊のみんなはそのまま作りしかめっ面で。頼むぞー!」
「ロト隊以外は、笑えー!」

その日オーシアでは、ウスティオ空軍第6航空師団がロト隊を捕虜にしたことが、ビンセントの所属する新聞社の号外で知れ渡ることになる。
その号外は、遥かベルカや、占領された各国にも行き渡った。



次の日、オーシアのとある空軍基地の一室。
オーシア国防空軍、第8航空団第32戦闘飛行隊隊長、ジョシュア・ブリストーは、その号外を読んで、意味深な微笑を浮かべていた。
その隣には直属の部下である、第8航空団第32戦闘飛行分遣隊隊長、アンソニー・パーマーがいる
彼の方は、ジョシュアとは対照的に驚愕に満ちた顔で号外を見ていた。

「ルーカン大尉、これは?」
「読んでのとおりだ。どうせサイファーの正体に感づいて、味方に消されそうになったのをサイファーたちに助けてもらったのが真相だろう。べディビア、予定繰上げだ。今すぐヴァレー空軍基地に向かうぞ」
「了解しました。隊員たちとニカノール准将にも伝えます」

そう復唱し、アンソニーは部屋を出る。
春の陽気が過ぎかけている中、いつ終わるとも知れない春風を浴びながらジョシュアは考える。
じゃじゃ馬ならぬじゃじゃ鳥の指揮下につく羽目になった悪友、ラリー・フォルクのことも、少しだけ心配していた。

「アイツ、やつれていないといいが……」



再び2005年、ディンズマルク大学。

「私は今も傭兵が嫌いだ。
背負うものがなければその分速く飛べるとでもいうのか?
君は考えたことがあるか? 国というものを。
国家とは、そこに生きる人が為し、育むもの。
哀しいかな、オーシアもベルカも、当時はそれを理解する為政者に恵まれていなかった。
だから私はあの日を境に、ベルカではなく殿下の正当性を信じることにしたのだよ」

“あの戦争で唯一正しかったのは、サイファーであったと?”
「そうだ。
考えてもみたまえ、自国に核を落としたベルカ民主自由党政権の何処が正しい?
殿下を利用した挙句、戦後の大半の利権を掠め取ろうとしたオーシアの何処が正しい?」

“両方とも全然正しくありませんね”
「そうだ。
両方とも全くもって正しくない。
故に私は、今も殿下が最も正しいと信じている。
それが私なりの忠節だからだ」

“ところで、あの一騎打ち、結果はどうなったのですか?”
「ヴァレー空軍基地に向かいながらの背後の獲りあいは、紙一重で殿下の勝利に終わったよ。
不思議と悔しくはなかった。
子供の頃、どっちが先に図書館に着くか、ラリーと競争した時の気分を思い出したよ」


一喜一憂。
そんな言葉が当てはまるほど、彼の表情はインタビュー中めまぐるしく変わった。
片羽根の妖精の旧き好き友、赤いツバメ。
彼は私の予想とは違い、鮮やかに感情豊かだった。
そんな彼にインタビューできたのは、ある意味名誉なことかもしれない。
インタビューを終え、彼がチャーターしてくれたハイヤーに乗り、私は空港へと向かう。
今度は、ガルム3へのインタビューだ。



ピクシーとPJ。
ガルム隊の2番機と3番機。
ある日、PJはガルム隊の転属となる。
隊長は誇りに生きる戦乙女、2番機は報酬優先の妖精、そして彼は臨機応変な理想主義者。
次回、「戦域攻勢作戦計画4101~誇りのガルム3~」。
蛇よ蛇、お前は何故鷲と交代した?
カワウに撃たれ、修理に時間がかかるほどガタが来たからだ。

theme : 二次創作
genre : 小説・文学

2008-08-13

第2作戦「171号線奪還~荒くれ部隊と騎士道部隊~」

前書き:ピクシーの過去を、意図的に公式設定とは違うものにしています。
更に作中に「ゼネラルリソース」という単語を出しています。
公式設定の変更が嫌な方は閲覧を考慮してください。





ゴリアス中将へのインタビューで始まったこの物語。
舞台となるベルカ戦争には謎が多い。
今年になってやっと公開された資料は、ほんの一部。
ベルカ戦争を題材にドキュメント番組を作ることになった私は、その程度の量の資料に納得できるわけが無く、裏情報に手を出し、一人の傭兵の存在に気付いた。
『鬼神』と『戦乙女(ヴァルキリー)』のコードで呼ばれていた傭兵。
明らかなのは性別と所属基地に、ベルカ戦争中の無敵としか言えないほどの戦績。
そして、「サイファー」というTACネームだけ。
残りは全く不明。
多くの同業者が彼女の存在を明らかにしようとしたが、いずれもゴシップ目当てだったため玉砕。
私が入手した裏情報の内、琴線に触れたのは出生に関するものだけであった。

『ベルカ王室の血を引く、当時は日本国籍だった、
オーシア政府の陰謀で傭兵にされた、10歳にも満たない子供だった、
怪情報だらけである』

しかし、何故かその怪情報に惹かれた。
すぐさま私はウスティオに飛び、ゴリアス中将と面会。
ゴシップ目当てではないことを念入りに説明し、取材の許可を取り付けた。
そして中将の口から、サイファーがミラーフリスト公女殿下であることを知らされた。
それと同時に、ベルカ民主自由党が軍用デザイナーベビーの製造に着手していたことも知る
極秘裏に進められ実行されていた、超兵士製造。
どんな手を使ったのか、その存在と、殿下が超兵士であることをかぎつけたオーシア政府は、何を血迷ったか自分たちで利用するために、彼女を傭兵に仕立て上げた。
人道上、決して許されない手段と分かっていながら、オーシア政府は自分たちの金と権力で黙らせればいいと慢心。
戦争中は道具として利用し、戦後は傀儡政権の頂点に据え置くつもりだったのだ。
しかし、このような非道がいつまでもうまく行く筈が無く、オーシアが彼女を自軍に所属させようとした矢先、ウスティオ政府とサピン政府が恫喝。
恫喝に屈したオーシア政府が妥協し、彼女はウスティオ軍所属となる。
まだ、彼女との面会は叶っていない。
そこで彼女を知る者達に接触し、当時何があったかを聞き出すことにした。



ベルンハルト・シュミッド&デミトリ・ハインリッヒ
ベルカ空軍、第10航空師団第8戦闘飛行隊「グリューン隊」隊長と、第7航空師団第51戦闘飛行隊「インディゴ隊」隊長。
TACネームはラオディとバローン。
当時の階級はそれぞれ、大尉と中佐。
片や、ストリートギャング時代にベルカ民主自由党の演説を聞いたことで愛国心に目覚めて、空軍に入隊した荒くれ者。
片や、ベルカ騎士団の末裔であるハインリッヒ家の四男坊で、生粋のエリートパイロット。
ある模擬戦で、凶鳥ウォルフガング相手に偶然とはいえ抜群のコンビネーションを発揮して、限りなく勝ちに近い引き分けに持ち込む。
それが縁で親友同士となり、お互いに部隊を率いる身になっても、階級差が生じてもその関係は変わらなかった。
モーデル制圧戦では、ファド連邦の20機からなるF-14の大部隊をたった二人で壊滅させ、ベルカの勝利に貢献する。
だが当時のベルカ軍では、命令違反常習部隊の隊長と、騎士道を重んずる模範的部隊の隊長の友達付き合いを快く思わない者が圧倒的に多かった。
南部戦線171号線での戦いに助っ人として出撃。
その際にガルム隊と邂逅し、敗北。
二人だけでなく両隊の隊員も奇跡的に軽傷で済んだが、帰還後二人とも自分の隊ごと西部戦線へ異動。
そして終戦から半年後、突然二人は予備役に移る。
現在、ベルンハルトはスーデントールのバーの雇われ店長になり、デミトリは父から貿易会社を継いで多忙な日々を送っている。
今回のインタビューは、ベルンハルトが勤め先を貸切にし、デミトリがスケジュールを調整してスーデントールに来たことで実現した。

2005年7月、スーデントール、ベルンハルトが勤務するバー。

「アレから10年か。
まさか、お姫様のことを探ってる奴のインタビューを受けることになるとはね。
人生って本当に何が起きるか分からねえわ」

「全くだ。
殿下も今年で19歳。
今年中には戴冠式を行う予定だ」

“お二人とも、サイファーがミラーフリスト公女殿下だと知っているんですか?”
「ああ。あの時のドンパチの最中、やたら腕の立つ奴がいてな。
お目当ての派手なアジャイル・イーグルだったんで、通信で名前を聞いたら……」

「ヴェールヴィント公子殿下の御息女だった、というわけだ」
“公女殿下はどのような方でしたか?”
「なんて言うか、無茶苦茶だったな」
「パイロットスーツとヘルメットは着用していたが、酸素マスクは未着用。
小学校に通うくらいの小さな少女が戦闘機に乗っているという異常事態に、私たちは動揺するしかなかった。
あまりの異様さに、自分の眼を疑ったよ」

「あの時程ベイルアウトしたいって思ったことはなかったな。
そして、それを突かれて、叩き落されちまった。
とにかく速いんだよ。
すれ違う瞬間を狙ってミサイルをぶっ放しやがったんだ。
とことん情け容赦無かったな。
まるで死神だ。
あの時はマジで死ぬかと思ったね」

「妖精の叫びで立ち直った後の、迷いの『ま』の字も無い飛び方。
ベルンハルトへの攻撃には、一片の躊躇いも見られなかった。
じゃじゃ馬なんて微笑ましいものではない。
運が悪かったら確実に死んでいたよ。
公女殿下は命の奪い合いを恐れていない、私たちの方はそれがたまらなく怖かった」

“その後、お二人とも隊ごと異動になっていますが?”
「ああ。
お姫様と妖精に叩き落された後、俺たちも、俺たちの部下も全員軽傷で済んだんだ。
正に奇跡だね。
で、基地に戻った後、何とかお姫様のことを公王様に伝えようとしたんだが……」

「なぜか口外しないように厳命された上で異動させられた」
“恐らく当時の軍上層部は、その事実が公表された場合、公女殿下が報復としてベルカ民主自由党の暴挙を暴露するのでは、と恐れていたのでしょう”
「だろうな。後で知って、俺もデミトリもキレたからな」
「終戦後、私たちはそのことを知った時、自国民を核で焼く以前にそのようなことまでしていたベルカ民主自由党を、本気で憎んだよ」

第2作戦「171号線奪還~荒くれ部隊と騎士道部隊~」


1995年、ベルカのとある空軍基地の談話室。
室内では兵士たちがくつろいでいたが、どこか空気が重かった。
一世代前の機体だけで構成されていたとは言え、自軍の爆撃機部隊が簡単に壊滅した以上、仕方がないことなのかもしれない。
そんな空気を読まずに、二人の仕官が爆撃機部隊全滅について、妙に明るく話し合っている。
流石に不謹慎だ、みんながそう思ったが、誰もそう言えない。
上官である以上に、二人ともベルカ空軍を代表するエースであるから。

「ベルンハルト、聞いたか? 妖精がウスティオ側についた」
「ああ。おまけに、もう一人腕に覚えがあるのがいる」
「そのもう一人だが、赤いラインが入ったアジャイル・イーグルに乗っているそうだ」

デミトリ・ハインリヒの言葉に、ベルンハルト・シュミットは興味を示した。
談話室のテーブルに向かい合うように座り、一緒にパンケーキを食べながら二人は会話を続ける。
空気を読んでいない上に、パンケーキというガジェットが嫌味なまでに二人に似合っていなかったため、二人の異様さが無駄に際立っていた。

「……何者なんだ、そのイーグルドライバーは?」
「真っ先に落とされた奴によると、マスクもヘルメットもパイロットスーツも未着用なのに、平然と操縦していたそうだ。オマケに、やたら背が低かったとも言っていた」
「……デミトリ、どんなバケモノだよ、そいつは。まさか、『超兵士』か!?」

超兵士とは、胎児の段階で遺伝子を操作し、更に強化手術を加えることで圧倒的に優秀な兵士として調整されたデザイナーベビーである。
ラルド派を始めとする議会と軍の各極右勢力は、この超兵士を量産することで、パイロットの育成に関わる経費の削減などを推し進めようとした。
無論、倫理的な問題から一蹴され、計画自体が表向きは凍結されることとなる。
が、極右勢力は自国民が駄目なら、他国民、それも黄色人種で造ればいいとばかりに、極秘裏に計画を推し進めていた……。
そして、その計画の産物の第一号は、連合軍の傭兵となっている。
そんな事実を知らないデミトリは、ベルンハルトの疑問を即座に否定。
ベルンハルトも、当然のごとく納得した。

「件の計画は机上の段階で一蹴されたんだぞ。第一、ウスティオがどうやって造った?」
「だよな。つーかそれ以前にサイボーグとは違って倫理面で一発アウトだからな、軍用デザイナーベビーなんて」
「しかし、例のイーグルドライバー、気になるな」
「戦いたいのか?」
「当然だ」

ベルンハルトの問いかけに、デミトリは即答した。
それはもう、談話室の空気を変えるのと同時に、周囲の兵士たちを吹かせるほどの爽やかな笑顔で。
室内の雰囲気が明るくなったので、別に悪いことではない。
この二人、互いに自前の部隊を持つ身でありながら、抜群のコンビーネーションで連合軍を圧倒している。
この回答に、ベルンハルトは嬉しそうにこう言った。

「この戦闘狂め」
「君に言われたくはないな」

今のやり取りは、二人の間では既に恒例行事である。
ハチミツとバターを大量に盛ったパンケーキを切り分け、一口、二口と、口に運ぶ。
今度はどうすれば赤いラインが入ったF-15S/MTDに遭遇できるかに、二人は話題を変えた。

「しかし、どうすれば遭遇できるのか」
「……171号線はどうだ?」
「陸軍の部隊を、常駐させているあそこか?」
「アレだけの凄腕だ、きっとそのアジャイル・イーグルも来る」

ベルンハルトとデミトリは、表情こそ険しいものだったが、目が笑っていた。
声も異様に嬉しそうである
あまりの妖しさに周囲の空気が歪む。
そんな二人が放つ覇気は談話室を覆いつくして周囲の連中を慄かせる。
見かねた一人の士官がベルンハルトとデミトリに、刺々しい視線を向けながら話しかけてきた。
それに気付いた周囲の兵士は、心なしか安堵している模様。

「何をしているのですか?」
『相談事』

士官の質問に、二人は声もタイミングも合わせて答える。
その回答に、士官は刺々しい口調でこう言った。

「他の者達がいるこの部屋で瘴気を放ちながらか?」
「瘴気だぁ!? 覇気を放っていたのは認めますけどね、フレイジャーしょ・う・さ・ど・の」
「フン、彼らの反応を見る限り、瘴気といった方が正しいと思うがな、シュミッドた・い・い」

ベルンハルトの言い方が癪に障ったらしく、デトレフ・フレイジャー少佐は言い返した。
二人の間に不穏な空気が流れ、兵士たちに緊張が走る。
売り言葉に買い言葉とばかりに、ベルンハルトが規律違反のスコアをも更新するかと思われたが、直後にデミトリが割って入った。

「やめないか、二人とも。我々の当面の敵は、味方ではなく、赤いラインの入ったアジャイル・イーグルと妖精だ」
「妖精!?」

デミトリの言葉にデトレフは即座に反応し、顔に青筋を走らせる。
デトレフのその様子に、ベルンハルトとデミトリは怪訝な顔をした。

「少佐殿!?」
「フレイジャー少佐!?」
「あの男、遂に祖国に牙を向いたか!」
「少佐殿、知ってるのか!?」

ベルンハルトの問いかけに、デトレフは更に怒りを燃やしながら、ベルンハルトとデミトリの方に向きなおす。
デトレフ自身は怒りを抑えようとしてるのだが、肝心の怒りはそれすら不可能なほど激しかったのである。
談話室が一瞬静寂に包まれたと誰もが感じた直後、怒号がそれをぶち壊した。
ベルンハルトとデミトリはパンケーキを食べる手を止め、他の兵士たちは次々と腰を抜かし、更には談話室そのものが揺れた。

「知っているとも、あの痴れ者のことは嫌と言うほど!」

以下、デトレフの説明
片翼の妖精(ピクシー)。
本名はラリー・フォルク。
幼少時に国境での紛争で両親を亡くした。
その後父方の親類に引き取られたが、高校卒業と同時に行方をくらました。
そしてすぐに傭兵としてオーシアとユークトバニアで有名になっていたよ。
それから約十年、ご両親の心配をよそに奴は傭兵として世界中を渡り歩いていた。
何故そこまで知っているかだと?
簡単だ、私とあの男は小中高の12年間、ずっと同じ学校、同じ学年、同じクラスだったからさ。

デトレフの説明に、デミトリは紅茶を飲みながら無言で呆れ、ベルンハルトはため息をついてからこう言った。

「浅からぬ因縁、というわけか」

因縁とは少し違うが、デトレフ本人にとっては既に因縁へと代わっていたらしく、訂正は求めなかった。
デトレフは手に持っていたコーヒーを飲み干し、紙コップを握りつぶしてからゴミ箱へと捨てる。
握りつぶす音と、ゴミ箱に入る音が、妙に大きく聞こえた。
絶対に許せない。
小父さんと小母さんのことを考えると、ラリーの選んだ道は許せるものではない。
デトレフの怒りは遂に、臨界点を超えた。

「そうだ。この十年間、小父さんたちがどれだけ心を痛めたか……。アジャイル・イーグルはくれてやる。だが妖精は……、ラリーだけはこの手で引導を渡し、小父さんたちのところに突き出してやる!

デトレフがそう咆哮するのと同時に放った覇気は、ベルンハルトとデミトリのそれを遥かに超える量であった。
彼の覇気で恐慌状態になった一部の兵士が、談話室から逃げ出していたが、デトレフは気付いていない。
それを見ていたベルンハルトは声を荒げたが、デトレフには聞こえていなかった。

「こっちの方が瘴気じゃねえかよ!」




数分前、ヴァレー空軍基地、未莱(サイファー)とラリー(ピクシー)の部屋。
未莱とピクシーは部屋でくつろいでいた。
子供である未莱は、実戦以外の飛行をある程度制限されており、飛べない日は自主練をするか、テレビを見ながら昼間から酒を飲む以外にやることがない。
オマケに1週間前、制限を通り越して飛行禁止の憂き目にあっている。
実は基地に帰還後、着陸準備直前に軽い視覚障害を起こし、気合で着陸を成功させたのだ。
着陸に成功後、強制的に医務室に運ばれ、即座に治療。
原因はすぐに判明した。
ミサイル着弾時の閃光を裸眼かつ間近で見たこと。
この時は、サングラスでもつければいいか、とピクシーの軽い一言で終わった。
それから3日後、久しぶりの訓練飛行で更に異常が発生。
並みの新米パイロットなら確実に内臓を損傷するような無茶な機動を繰り返した結果、全身に激しい筋肉痛が生じ緊急着陸。
またもや医務室に直行する羽目に。
今度の原因は、同じ条件下(パイロットスーツ未着用)だと常人なら確実に生死の境をさまようレベルの、Gが体にかかり続けたこと。
片やヘルメットを、片やパイロットスーツを着用していれば起きなかった事態である。
元々彼女に合うサイズのものが無く、同時に今までこれと言った異常が無かったため、未莱のヘルメット&パイロットスーツ未着用を、基地司令であるゴリアス大佐は渋々黙認していた。
しかし、未莱の身に二度も異常が発生した以上、もう黙認は出来ない。
かくして、専用のヘルメットとパイロットスーツが出来るまで、未莱は飛行禁止。
更に筋肉痛の件で医師からなるべく安静にするようにといわれたため、自主練も禁止されているのだ。
実は、飛行を禁止されたのはこれで2度目。
現在、ヘルメットもパイロットスーツも完成まであと一息というところまで来ていた。
あと少し、あと少しでまた空を飛べる。
そんなことを考えながら、未莱は今日の酒、スピリタスのビンの蓋を開けた。
人によっては一滴舐めただけで酩酊状態になりかねない危険な酒を、平然とビンに入ったまま一気飲みしている。
一方のピクシーはベッドに寝転がりながら、苦い表情で本を読んでいた。
テレビ番組の音声と、自分が酒を飲む時に出る音に混じり、ピクシーが本のページをめくる音が数十秒間隔で未莱の耳に届いた。

「暇だー……」

ビンの中身が半分以下になった頃、口を閉じた状態でゲップをしてから、不意に未莱は口から呟いた。
しっかりとスピリタスのビンを手に持ったまま。
既に、ビンだけでなく未莱自身の体から酒の匂いが放たれている。
しかも、未莱から放たれている匂いの方が強い。
これがこの間同様、ブランデーならピクシーは何とか我慢できた。
相棒が酒に強い、と言うより幾ら飲んでも酩酊状態にならないのは、ここ数日で理解できていたから。
ベルカ軍が発案した軍用デザイナーベビー「超兵士」は、子供の段階でも酒を飲んで平然としていられる。
パイロットスーツとヘルメット、そして酸素マスク無しで戦闘機に乗っても、軽い異常といった軽傷で済む。
目の前にいる相棒が嫌と言うほど証明してくれた。
その身に施された遺伝子操作と強化改造が、いかに過剰であったかが窺える。
しかし、相棒が今飲んでいるのは、飲酒中は火気厳禁で有名なスピリタス。
そんな物を飲んでいたら、見ている方が気分が悪くなる。
遂にピクシーは本のページをめくる手を止め、呆れた声で自分の相棒に呼びかけた。

「せめてジュースで薄めてから飲めよ、相棒」

ピクシーの苦言も何処吹く風、サイファーは酒を飲むのをやめなかった。
むしろ、飲むスピードが上がっているように見える。
本来なら、子供が飲んだら即死してもおかしくないほどの無茶苦茶な酒を、嬉々として飲んでいた。
このままいくと、冷蔵庫にあるもう一本のスピリタスも開けかねない。
そんなピクシーの心情を他所に、未莱はしれっとこう言った。

「スピリタスはストレートで飲むのが好きだから、嫌よ」
「あのなー……」

ピクシーことラリー・フォルク、目下の悩みはサイファーの度を越した飲酒。
付き合わされることはないが、子供が度数の高い酒を浴びるように飲む光景は、ピクシーですら見ていて気分が悪くなるのだ。
しかし、彼女が飲む理由を知ってしまったピクシーは、断酒しろとは言えない。
他の者なら、焼けるような痛みで食道の位置が分かる様な劇物、スピリタス。
自分に喫煙の習慣がないことを、初めてピクシーは後悔した。
もし習慣があったら、タバコの火の不始末による事故に見せかけて、あの劇物を処分できたから。
火傷と相棒の恨み言は確実だが。
本を閉じ、天上を見上げるピクシーにできることといえば、ベルカ民主自由党への怒りと怨念を募らせることぐらいしかなかった。

「あんなトコ、見ちまったらな……。畜生、ベルカ民主自由党め!」

本を枕元に置きなおし、ピクシーは不貞寝同然に昼寝としゃれ込んだ。
酒量を控えろとか、飲み方や飲む時間帯を考えろとは言えても、酒を飲むなとは言えない。
第一、ウスティオは法律上、未成年でも酒は飲み放題である。
それ以前に、アレを見て、酒を飲むなと言えるものか。
方法はただ一つ、相棒が飲み終わるまで、昼寝で時間を潰すしかない。
未莱はピクシーの行動を見ていたが、心の中で「寝たくもなるか」と呟き、一本目を飲み干す。
10歳にも満たない自分が酒を飲むと言う異常行動が、ピクシーの不貞寝の理由であることに気付いてはいた。
そして、冷蔵庫に入っている2本目を取り出そうと思った矢先、背筋に悪寒が走る。
直後、口からなんとも可愛らしい爆音が発せられた。

くしゅん! ……?」

この基地の漢連中のそれとは比べる必要もないほど可愛らしいせいか、ピクシーは起きなかった。
未莱は、自分が風邪を引いていないのにくしゃみをしたことに首を傾げたが、とりあえず、冷蔵庫に入れてあったもう一本のスピリタスを取り出した。
そしてビンのフタを開け、もう一本も飲み始めた。
常人なら喉が焼ける以前に、吐血しても不思議ではない飲み方である。
部屋の中は、テレビの音声と未莱が喉を鳴らす音、そしてピクシーの寝言だけが響き渡った。

「どうだー、べるかみんしゅじゆうとうめ。おれとあいぼーのそこぢからをおもいしったかー!」

ピクシーは、熟睡中&ドリームランドの中。
ベルカ民主自由党の連中を攻撃して嬉々としている夢を見るあたり、ピクシーは相当彼らを憎んでいるようだ。
未莱はそんなピクシーの寝言を特に気にはしない。
淡々とスピリタスを飲んでいる。
ピクシーの身の上と、ベルカ民主自由党を憎む理由を知っているため、「そんな寝言を言いたくもなるよね」、と納得していた。
彼女もまた、ベルカ民主自由党を憎んでいるから。

「暖房は効いているのに……。お酒、全部飲んだか」

数秒後、二本目のスピリタスをすぐに飲み干したことに気付いた未莱は、食堂へと向かうことにした。
別に酒を調達するわけではない。
酒ならPXで買えるので、そんな事をするために食堂にいくこと自体皆無である。
テレビの電源を切り、昼寝中のピクシーに布団を掛けてやってから、ツインテールを揺らして未莱は部屋を出た。




食堂の一角。
昼飯時は過ぎているせいか、食堂のスタッフ以外の人間は極少数しかいない。
未莱の体にはスピリタスのアルコール臭が染み付いており、それは近づけば一発で彼女が飲んでいたことが分かるほど強かった。
石鹸の匂いと、少女特有の甘い匂いが台無しである。
3時のおやつのケーキを頬張る未莱に、一人の傭兵が近づいてきた。
男のTACネームはピット。
第65航空隊「ヴァイパー・キッチン」の隊長。
ユークトバニア空軍の高級士官だが、当時の上官のスキャンダルを理由に予備役に移り、外国で傭兵稼業を始めた変り種である。

「サイファー、お前また酒飲んでたな?」

酒の匂いを振り撒く未莱に、ピットは呆れ果てた口調で話しかける。
自分のすぐ隣に座ったピットに、未莱は平然と返答。

「分かる?」
「酒を飲んだ奴の匂いなんてすぐ分かるさ。全く……昼間から酒を飲むなら、俺の焼いたケーキを食えよ」

今未莱が食べているケーキはピットが焼いたものである。
それを見ていた食堂のスタッフは、「また始まったよ」と言った顔で苦笑いしていた。

「暇だとお酒と自手練以外に暇つぶしの方法がないのよー」
「飲兵衛め……」

ピットはしょうがないな、といった顔で、ケーキを頬張るサイファーを見る。
やっぱり年頃の子供には、酒より菓子がにあう。
ピットだけでなく食堂のスタッフ全員もそう心の中で呟いた。
この基地にいる者はほぼ全員、サイファーの大量飲酒の原因を知っており、苦言を言うことは出来ても、止めさせる事は出来ない。
無論、ピットも例外でなかった。




サイファーとピクシーの部屋。
熟睡していたピクシーは、いきなり凄い勢いで起き上がった。
ピクシーは慌てて周囲を見渡し、そこが自室であることを思い出して安堵する。

「……相棒は?」

いつの間にか相棒は部屋を出ており、テレビも電源が切られている。
そして、目を閉じた際に被っていなかった布団が掛けられていたのを見て、相棒が自分に布団を掛けてくれたことに気付いた。
これでもう少し酒量を控えてくれたらと、ピクシーはため息をつく。
彼女を相棒と呼び、同室になって以降、サイファーの飲酒に悩まされるのと同時に気遣いに無性に感謝していた。

「久しぶりに、それも夢の中であいつの声を聞く羽目になるとはな。相棒でも探すか」

ピクシーは相棒を探すついでで、とりあえずコーラを飲むために食堂へと向かうことにした。
何故コーラを飲むためなのかは、ピクシー本人にも分からない。
ベッドの布団を綺麗に敷き直し、枕元に置いてあった本を本棚になおして、ピクシーは部屋を出る。
昼寝の際に出来た寝癖はそのままで。
サイファーがいないせいか、室内のアルコール臭はいつの間にか消えていた。




食堂。
コーラを飲むために食堂に入ったピクシーが見たのは、ケーキを頬張る相棒と、彼女の席の向かいに座っているピットであった。
ここ数日で見慣れた光景である。
飲む量を減らしてその分自分が焼いたケーキを食えと言うピット。
それを拒否する相棒。
子供が酒を飲む光景と比べて、何と微笑ましい事よと、ピクシーの顔が緩む。
そういえば、ピットのヤツ調理師免許だけじゃなくて製菓衛生師免許も持ってたっけ。
そんなことを思い出しながら、ピクシーは自販機でコーラを買う。
この基地の自販機で、コーラが置いてあるのは、ここにあるのだけであった。
会話に夢中になっている相棒の隣に座り、匂いをかいでみる。
何故か相棒から発せられていたはずのアルコール臭が弱くなっていた。

「変だな……。相棒の酒の匂いが薄くなっている」
『ピクシー!?』

会話に夢中でピクシーの存在に気付いていなかったらしい。
サイファーとピットは素っ頓狂な声をあげてピクシーの方を向いた。
二人の動きに、なぜかピクシーだけでなく食堂のスタッフたちまで笑い出す。

「ちょっと待て、何であんた達まで笑うんだ!」
「流石に怒るわよ!」




次の日、ブリーフィングルーム。
先日の一件が知れ渡ったせいか、傭兵の数が増えていた。
何とか新参者を押しのけ、未莱とピクシーは前回と同じ席に着席。
その分室内を狭く感じるピクシーだったが、傭兵なんてこんなものか、と割り切る。
サイファーは、前回とは違ってパイロットスーツを着用。
ヘルメットと共に、ギリギリで完成したのである。
サイファーのF-15M/STDの配色を意識したのか、所々に白と赤のラインが入っていたので自然と目立つ。
髪の方もヘルメット着用のためか、いつものツインテールではなく、普通におろしていた。
愛機に走るラインと同じ色調の、なまめかしい赤い髪が、時折ふるふると揺れた。
まだゴリアス大佐が来ていないため、傭兵たちの私語が室内に響く。
対して、サイファーは新しく入った傭兵たちに不快感を感じ、眉をひそめた。
新参者たちは、まだ子供である未莱に奇異の視線を向けていたのである。
未莱にしてみればそれが気に入らない。
少し優勢になったらこれか、と未莱は思った。
オーシア政府の陰謀で傭兵にさせられた彼女からしてみれば、新参者たちは歓迎したくない連中でしかない。
ヴァイパー・キッチン隊やクロウ隊の面子も同意見らしく、不機嫌さが滲み出ていた。
それを察したのか、ピクシーが未莱に話しかける。

「相棒、傭兵なんてあんなのばかりだぜ」
「ピクシーも?」

未莱は、ベルカ民主自由党への恨みと怒りからウスティオ側についたのだからピクシーは違うと信じたいらしい。
自分と戦う理由が同じである以上、無理もない。
しかし、ピクシーは今まで金のために空を飛んでいた。
ピクシーは一瞬だけ正面のモニターに視線を移してから、迷わず相棒の疑問を肯定する。

「ああ。戦争に正義も悪も無いし、傭兵は金で動くものだ」
「私怨でウスティオ側についた貴方が言っても説得力がないわ」

キッパリと返されたピクシーは、面食らった顔をした。
説得力がないのは事実ではある。
しかしそれを相棒に指摘されるとは思っていなかったらしい。
直後に本人の口から出た言葉がそれを物語っていた。

「ほんと、敵わねえわ。相棒には」

苦笑いするピクシーを見て、サイファーは「何を今更」と言いながらもつられて笑う。
それを見た新参者たちは怪訝な顔をし、クロウ隊とヴァイパー・キッチン隊は表情が穏やかになった。
そうこうしている内に、サイファーの隣に一人の青年が、ピクシーの隣に長髪の美人が着席。
青年の方は人懐っこい顔をしており、興味深くまじまじとサイファーを見ていた。

「……何?」
「君がサイファーだよね?」

青年は好奇心を隠さずに、未莱にこう言った。
当然、未莱は肯定する。
同じ基地にいる以上、隠す理由は無い。
この場合、素直に肯定した方が後々問題にならない。

「そうよ。貴方は?」
「俺? 俺はパトリック・ジェームズ・ベケット。TACネームはPJ。ウスティオ出身で、ベルカの連中をこの国から叩き出すために参加したんだ」

この自己紹介に、未莱は不思議と好意を抱いた。
ピクシーとクロウ隊とヴァイパーキッチン隊といった、初期メンバー以外の傭兵は金でしか動かないイメージがあったから。
「他の傭兵にも意外とマトモなのがいるのね」と思いつつ、パトリックの自己紹介を聞き続けた。

「趣味はバイクいじりとビンテージコミックの収集とポロ。ちなみに所属はクロウ隊なんだ」

その一言に、未莱は思わず面食らった。
初めて見る顔なのに、実際には初期メンバーの一員。
未莱にしてみれば面食らいたくなったのであろう。
面食らうあまり絶句までしたらしく、絞り出すように声を出した。

「クロウ隊のメンバーなの?」

素っ頓狂な声を上げつつ、未莱はパトリックに顔を近づけた。

「ああ。この間まで別の任務で隊を離れていたんだ」
「最初からこの基地にいた人たち以外の傭兵にも、マトモな人がいると思ったら……」

未莱の落胆の声に、パトリックは納得しつつも分かってないなあ、といった顔をした。
これには、ピクシーとヴァイパーキッチン隊の面子が「何を言ってるんだ」といった顔をし、クロウ隊の残りは何と言えばいいか分からず黙り込む。
まだ子供である未莱は、思考が少し単純なのかもしれない。
そしてゴリアス大佐が入室し、傭兵たちの私語が収まる。
ブリーフィングが始まり、室内に緊張が走った。
ゴリアス大佐の口が開く。

「今回、サピン王国はアルロン地方に位置する国道、171号線の奪還にあたる。この171号線は、ウスティオにとって生面線ともいえる」

ゴリアス大佐がモニターに移された地図の、171号線が記されている部分を指揮棒でなぞった。
そこが拡大され、敵性戦力を示すマーカーが映し出される。
航空機のものは指で数えられるほどしかなかったが、陸軍の部隊が常駐しているだけあって、地上戦力のものは多かった。
ゴリアス大佐は視線をモニターから傭兵たちに移し、再び口を開く。

「ここを奪還すればオーシアとサピンの陸上戦力と、物資の運搬が可能となり、ウスティオ解放も近づく。この作戦を成功させよ、以上!」




一番奥の格納庫。
テュラン山脈の奥地にあるこの基地は、アラートハンガー以外にも、山肌をくりぬいて作った格納庫もある。
傭兵たちの機体は殆どアラートハンガーで常時待機。
しかし基地のスタッフの総意として、未莱のF-15S/MTDだけは滑走路と直結している、この一番奥の格納庫で待機させられている。
そのため、スクランブル時は必ず最後尾となり、着陸も難易度が上昇。
これは、未莱が飛行を制限されているためでもあるが、同時に護衛しやすい、と言う理由もあるのだ。
他の傭兵たちを疑う行為になるが、この基地にいる傭兵の殆どは、サイファーの出生を知っている。
その内の誰かが金目当てで、彼女を手土産に寝返るとも限らない。
その代わり、アラートハンガーよりは広いので整備も燃料補給も多少楽だったりする。
整備と補給が終わっている愛機F-15S/MTDに乗り込もうとした直後、整備兵、リン・イオギが未莱を呼び止めた。

「サイファー、ちょいストップ!」
「何!?」

振り向いたサイファーに、リンはヘルメットを手渡す。
そのヘルメットは目を保護するためのシールドの色が妙に薄く、更に固定されていた。
キョトンとした未莱は、リンに問いかける。

「このシールド、変じゃない?」
「残念、普通のシールドの代わりに、ゼネラルリソースの新型HMDのプロトタイプを改造してくっ付けたんだ。イーグルアイがお前のヘルメットにって、闇ルートから調達したんだ」
「イーグルアイが!?」

既に格納庫のハッチは開き始めている。
給油車も他の整備兵もF-15S/MTDの側から離れ始めていた。
驚く未莱を尻目に、リンは続けた。
まだ寒いためか、リンの逆モヒカン頭には、殆ど汗が出ていなかった。

「お前、この間の戦闘から帰ってきたとき、眼がチカチカして着陸に苦労したって言っただろ?」
「うん」
「裸眼でミサイルの着弾の瞬間なんか見るからだ。それをイーグルアイが見かねたのさ。後でイーグルアイに礼を言っとけよ」

リンはそう言って未莱とF-15S/MTDの側を離れた。
格納庫のハッチも完全に開いている。
未莱はHMD付きヘルメットを装着し、これまたイーグルアイがどこかから調達してくれた愛機、F-15S/MTDのコックピットに乗り込む。
キャノピーが閉まり、二つのターボファンエンジンが起動。
最大の特徴にして、通常のF-15との相違点の一つでもある、エア・インテークのカナード翼が、くりくりと動く。
タキシングで格納庫内を出た直後、管制官の声が聞こえた。

「ガルム1、離陸を許可する」

この声に呼応するように、停止せずに滑走を開始する。
F-15との、もう一つの相違点である二次元排気ノズルがゆっくりとその口を全開にして火を吹いた直後、一気に加速。
未莱の体にGがかかるが、彼女には何の負担にもならない。
F-15S/MTDは、本来は空戦機動と短距離での離着陸の研究用試験機に過ぎず、上昇限度と最高速度は通常のF-15に劣る。
しかし、それを帳消しに出来るほどの運動性能を買われ、実戦導入された経緯を持つ機体なのだ。
速度が上がり、170マイル前後で操縦桿を一気に引き、離陸。
速度と高度を上げ、遥か前方を飛ぶピクシーの、右主翼を赤く塗ったF-15Cを追いかける。
一定の高度に上がり、車輪を収納。
管制官の声が再び聞こえた。

「高度制限を解除。8日ぶりの飛行なんだ。思うまま暴れて来い、サイファー!」
「サイファーにお任せ!」






サピン王国、171号線。
当地を占拠するベルカの機甲部隊には緊張が走る。
爆撃機部隊を全滅させた傭兵部隊が、こちらに来ているとの情報が入ったのだ。
残念ながら、ゲルプ隊を始めとする南部戦線の航空戦力は別の作戦で大半が出払っており、止むを得ず東部戦線の部隊を二個ほど借りることとなった。

「ウスティオの傭兵どもがここに来ているそうだ」
「この間の勝利に味をしめたか」

一人の戦車長が、通信で別の戦車長に話しかける。
心なしか、その戦車の砲手と操縦手もそわそわしていた。
この171号線は南部戦線の要。
ここを奪還されたら、そこからオーシアとサピンの陸上戦力が確実になだれ込む。

「しかし、奴らもこれまでだ。東部戦線から「藍鷺」と「フクロウの目を持つ男」が来るそうだ」
「本当か?」
「何でも、傭兵部隊にいるアジャイル・イーグルと戦いたくて、こっちに来るんだと」





一方の第6航空師団。
171号線目掛けて全機巡航速度で飛行。
F-15S/MTDのHUDとは別に、未莱のヘルメットのHMDにも情報が表示される。
所属する傭兵の乗機に通信が入った。

「こちらは空中管制機イーグルアイ。全機、隊別に指示に従え。なお、本作戦にはサピン空軍第9陸戦航空旅団も参加する。晩飯代を掠め取られるなよ」
「イーグルアイ、あの……」

未莱はイーグルアイに礼を言おうとしたが、直後にイーグルアイに遮られた。

「サイファー、HMDの件は作戦が終了し、基地に帰還した後だ。今は作戦遂行に集中しろ」
「……了解」

未莱を黙らせてから、イーグルアイは改めて説明を始めた。

「攻撃目標は幹線道路に布陣している。全機、作戦開始だ。171号線を占拠する機甲部隊を撃破せよ!」
「しっかり上から見てろよ、イーグルアイ」

説明終了後、ピクシーが気楽に返す。
直後に、サピン空軍第9陸戦航空旅団の機体が合流して来た。
その中の、微妙に二等辺三角形みたいな二機、J35JとラファールMのコンビがガルム隊を刃物のような鋭利な視線で睨んでいた。
彼らこそ、サピン空軍第9陸戦航空旅団第11戦闘飛行隊、「エスパーダ隊」である。
彼らの鋭利な視線に気付いたのか、サイファーとピクシーは、それぞれの乗機のキャノピー越しにエスパーダ隊の機体を見ていた。

「エスパーダ2、アレが噂のガルム隊だ」
「無名の凄腕新人と片羽の妖精の二機編成……。生意気な編成ね、気に入らないわ」

エスパーダ2・マカレナこと、マルセラ・バスケスは不愉快だといわんばかりに吐き捨てた。
マルセラのガルム隊を見る目が、更に険しさを増す。
それに比例するように彼女のラファールMから瘴気が滲み出している。
ガルム隊をこの場で叩き落してやりたいという衝動を抑えながら、エスパーダ1・トレーロこと、アルベルト・ロペスはマルセラの言葉を肯定した。

「まったくだ。実に生意気だ。俺たちの味方でありながら二機編成とは……気に食わん!! しかも隊長は妖精ではなく、新人の方らしい」
「エスパーダ1、しかもその新人はまだ初潮すら迎えていない小娘らしいわ。我々以外の二機編成という時点で不愉快なのに……」

瘴気を振り撒くエスパーダ隊の二機を見ながら、未莱は通信越しにピクシーに話しかけた。
心なしか、彼女の声には若干の怯えが見られる。
一方のピクシーも、エスパーダ隊の瘴気におぞ気を感じていた。

「ピクシー、あのサピンの二機、一体何なの!?」
「あいつらは第9陸戦航空旅団第11戦闘飛行隊。通称『エスパーダ隊』だ。奴らはどうも俺たちが気に入らないらしい」

率直に返すピクシー。
心なしか操縦桿を握る手には、いつもより力が入っていた。
ピクシーの返事に、未莱は面食らったように聞き返す。

「どうして!?」
「エスパーダ隊は、サピン随一のエース部隊として有名だ。が、それ以上に自分たち以外の二機編成の部隊とかコンビとかを、誰彼敵味方構わずライバル視することで有名なんだ」
「はぁ!!? どういう神経してるのよ!」
「知るか。っていうか知りたくもない! そろそろ敵が射程内に入るぞ、相棒」

HMDとキャノピー越しに、未莱は敵部隊の姿を確認する。
敵の構成は、対空機銃にSAM、そして装甲車と戦車。
航空機の構成は分からない。
ピクシーはふと、敵の物資が収納されていると思しき家屋やテントを見渡す。
そして、望みを懸けるような表情で、通信で未莱に話しかけた。

「相棒、あの家とか、テントとかも、……潰すのか?」

テントや家屋、そして敵部隊の輸送車は攻撃対象から、除外。
ベルカの部隊をたたき出せば、テントの物資は無傷でこちらの物になるし、家屋には住人たちが戻ってまた生活を始めるのだ。
輸送車は、生き残った兵士たちを乗せてここから撤退してくれる。
殲滅戦など、未莱は最初からする気すら無い。
金のためでは無く、あくまでもベルカ民主自由党政権をぶち壊すために戦う未莱に、殲滅という選択肢は無かった。
凛とした表情で、未莱は毅然と返した。

「攻撃対象外に決まっているでしょ、変なこと言わないの。ピクシー、一番槍を狙うわよ!」
「了解、相棒! それを聞いて安心したぜ、俺は~」

二人とも乗機を左側にロールさせて、そのまま一気に加速。
同時に下降し、ある程度高度が下がったところで機体を水平にして散開した。
未莱は照準をターゲットに合わせ、トリガーを引く。
拳銃とは比べ物にならない程の速度で発射された銃弾の群れが、装甲車を直撃。
装甲車は轟音を上げて大爆発した。
その光景を見た他の数台が後退を始める。
それを逃すまいとF-4Eが未莱のF-15M/STDに照準を合わせ……、直後にピクシーのF-15Cから発射されたAAMの餌食となって、そのまま地面に叩きつけられた。

「サイファーが敵装甲車を破壊。お、続いてピクシーが敵機を撃墜」

イーグルアイの声も、心なしか嬉しそうだった。
空の敵はピクシーに任せ、未莱は今の所は地上戦力の駆除に集中することに。
後退し始めた装甲車の残り目掛けて、未莱は躊躇うことなく気化爆弾を投下。
爆音と共に投下地点一帯が爆風に包まれ、付近の装甲車は全部吹き飛ばされ、盛大に転げ回る。
あれだけの爆発で吹き飛ばされたのだ、中にいた兵士たちは、全員首があらぬ方向に曲がっていることだろう。
ふと、次のターゲットに機銃の照準を合わせながら、未莱は少しだけ憂いを帯びた顔をしてから呟いた。

「これが、戦争……」

通信越しにその呟きを聞いたイーグルアイは、未莱を諭すように話しかけた。
イーグルアイの表情は、さっきとは違って未莱同様憂いを帯びていた。

「そうだ。違う国同士の人間が、自分たちの意地と誇りと正義を懸けて殺しあう。それが戦争だ」
「そう……」

悲しげな目で、照準に捉えた敵戦車を見ていた未莱は、表情を引き締めた。
迷いを捨てた目と表情になり、同時にトリガーを引く。
キャタピラを破壊され、パニックに陥った乗員は戦車を捨てて退避。
SAMから発射されたミサイルをループして回避、そのまま垂直下降して再び機銃を発射する。
SAMの破壊を確認してから、未莱は操縦桿を引き、機体を水平にした。

「今は我慢してね。痛みも恐怖も全部背負い続けるから。死んでそっちに行った時に、幾らでも恨み言を聞いてあげるから!」

F-15M/STDは更に上昇。
次に、正面から来るMiG--21bis目掛けてミサイルを発射。
ミサイルがコックピットに直撃し、MiG--21bisは瞬時に爆発、分解した。
未莱が迷いを捨て、攻撃に激しさが増したF-15M/STDを見ていたマルセラは、ふと呟く。

「さっきまで機動に迷いがあったのに……」
「エスパーダ2、認めたくは無いが、あれが迷いを捨てたエースの攻撃だ」

ウスティオ空軍第6航空師団と、サピン空軍第9航空陸戦旅団の猛攻の前に、機甲部隊は壊滅。
SAMとAAMは全て破壊され、航空機も全機撃墜。
残った戦車と装甲車、そして輸送車群は生き残りを乗せて撤退し始めている。
その光景を、遠方から凝視する八つの機影があった。
ベルカ空軍第10航空師団第8戦闘飛行隊と第7航空師団第51戦闘飛行隊。
グリューン隊&インディゴ隊。
乗機はそれぞれF/A-18CとJAS-39C。
味方部隊の撤退を確認したベルンハルトは、通信でデミトリにぼやいだ。

「間に合わなかったか。よく見たらサピン空軍、それもよりによってエスパーダ隊が所属している第9航空陸戦旅団までいるぞ」
「連合軍は、余程171号線を奪還したいらしい」

そして、グリューン2が、未莱のF-15M/STDの姿を確認した。
青い翼と、全体に赤いラインを走らせた純白の胴体。
グリューン2には、それが不思議と艶(あで)やかに見えた。
グリューン2は即行で報告。
それを聞いたベルンハルトは、マスク越しににやけた。

「こちらグリューン2。例のアジャイル・イーグルを確認!」
「派手なアジャイル・イーグルだな。楽しませてもらうか」

一方のデミトリも、ガルム隊を確認。
にやけつつも部下たちに通達した。

「インディゴ1より各機、アジャイルイーグルと妖精のイーグルの二機編成が見えた。全機、『ベルカ藍色の騎士団』の誇りを見せてやれ」

八機は同時に加速。
速度を上げ、そのまま直進。


一方、超兵士としての直感でそれに気付いた未莱に、悪寒が走る。
すぐさま未莱は、叫ぶようにイーグルアイに呼びかけた。

「イーグルアイ、敵機が近づいてる筈よ。確認して!!」
「分かった。……! 全機、敵性戦闘機が接近中。その数八機!」

遅すぎた敵増援の存在を察知した相棒の叫びが、耳に残っている。
すぐ隣を飛ぶ相棒のF-15M/STDを見ながら、ピクシーはただ呆けた顔で驚くことしか出来なかった。
超兵士は、身体だけでなく勘といったあやふやな物まで強化されているのか、と。
そして、すぐにレーダーを確認。
敵機の反応に気付き、目を見開く。
そこに、未莱の通信が入った。

「ピクシー、増援も落とすわよ」
「言うと思ったよ。了解、こうなったらベイルアウトするまでついて行くぜ」

ガルム隊の二機は、アフターバーナーで一気に加速、同時に二機のノズルが大きく開かれる。
そしてそこから噴き出される炎の量が一気に増えた。
敵部隊に突撃。
それを見たエスパーダ隊とクロウ隊も、負けじとばかりに同じ行動に出た。
八機対七機。
こちらは一機少ないが、未莱が乗機と腕でカバーしてくれる。
穀倉地帯上空が、さっきより騒がしくなり始めた。

「あと少し。衝突する一歩手前まで……。今!」

F-15M/STDを加速させたまま、グリューン隊の一機のコックピットに照準を合わせ、機銃を発射。
しかし、未莱の狙いに気付いたF/A-18Cは紙一重で急下降する。
弾は未莱が狙ったコックピットを抉らず、代わりにエンジンを吹き飛ばす。
相当怖かったのか、乗っていたグリューン3は悲鳴交じりに声を上げた。

「グリューン3、被弾! エンジンをやられた、チクショー! あのアジャイル・イーグル、無茶苦茶だ!!」
「グリューン1より3、射出装置はグリーンにしているか?」
「安心してくれ、既にグリーンにしてる。グリューン3、イジェークト!!」

グリューン3は即座にベイルアウト。
キャノピーが飛び、操縦席後と射出される。
数秒後、パラシュートが開き、運良く撤退中の味方の輸送車の方へと流れて行った。
その直後、胴体に火花が走り、グリューン3のF/A-18Cは爆発。
ベルンハルトはグリューン3の脱出を確認してから安心し、直後に残りの部下に呼びかける。

「1より2と4、お前らも射出装置をグリーンにしとけ。気をつけろ、あのアジャイル・イーグルに乗ってんのは鬼だ!」
『了解!』

グリューン2&4は、クロウ隊の攻撃を巧妙にかわしながら復唱。
インディゴ2~4もエスパーダ隊を相手に奮闘。
ベルンハルトのF/A-18CとデミトリのJAS-39Cが、ガルム隊に狙いを定めた。
一方のガルム隊も、件の二機と対峙する準備を始める。

「俺のホーネットの一突きと、デミトリのグリペンの一薙ぎの同時攻撃を、かわせるか?」
「凶鳥を引き分けに追い込んだ私たちのコンビネーションを見たまえ」

「相棒、フクロウの目を持つ男と藍鷺だ!」
「ベルカ空軍のエースコンビね。落とした時の報酬は早い者勝ちよ!」

マッハ2以上の速度を出すことを「切り捨てた」設計がされたF/A-18Cと、正式に配備されて間もないJAS-39C。
ハチの腹をような、見方によっては愛らしく見える胴体が特徴のF/A-18C『ホーネット』。
先代機AJ-37『ヴィッゲン』の特徴である「クロースカップルドデルタ」(デルタ翼とカナード翼の組み合わせのこと)を踏襲し、同時に機体デザインが洗練されたJAS-39C『グリペン』。
設計思想も形状も全然違う、けれども理想的なマルチロール戦闘機のコンビが、二羽のイーグルに襲い掛かった。
互いに直進する中、デミトリのJAS-39Cが突如としてロケットランチャーを発射。
不意を突かれたガルム隊の二機は急旋回してロケット弾を回避。
未莱のF-15M/STDは回避する直前、ベルンハルトのF/A-18Cをロックオンし、AAMを発射したが回避されてしまった。
通信越しに未莱はベルンハルトに怒声を浴びせる。

「避けるなー!」
「やかましい! ……ひょっとして、今のはアジャイル・イーグルに乗ってる奴か?」

ベルンハルトの問いかけに、未莱は首をかしげながら答えた。

「そうよ。だから何!?」
「俺はベルカ空軍大尉、ベルンハルト・シュミット。覚えておいてやるから名前教えろ!」
「ミラ・アリマよ。何がしたいの?」

未莱から、名前を聞いた瞬間、ベルンハルトは頭に何か引っ掛かる物を感じた。
何だっけ?
「ミラ」って名前、確か何年か前になんかのアングラ雑誌で見たことが……!!
瞬間、シールド越しでも分かるほど、ベルンハルトの顔は青ざめた。
思い出したのだ。
「ミラ」という名前の少女の正体を。

「何で、何で戦闘機に乗って、オマケに敵側についてるんだよ……。ミラーフリスト姫様!」

ベルンハルトの絶叫に、未莱とピクシーだけでなく、デミトリも青ざめた。
ヴァレー空軍基地のみんな以外で、未莱がベルカ王室の血を引いていることを知る者は極僅か。
ましてや、ベルカ側となると、公王以外ではベルカ民主自由党の連中ぐらいしかいないはずである。
デミトリのJAS-39Cを追いながら、今度はピクシーが吼えた。

「そこのフクロウ、何で知ってるんだ! 相棒の「もう一つの名前」を!」
「……さあな!?」

ベルンハルトは、意図的に答えなかった。
未莱の方は、敵にもう一つの名を呼ばれたショックから、操縦が乱れ始めた。
何とか落ち着こうとするが、ベルンハルトの声が、頭の中で何度も再生される。
集中できない。
捨てた迷いが再び心に湧き始める。
正面の、デミトリのJAS-39Cに照準を合わせた。
デミトリもまた、正面から来る未莱のF-15M/STDに照準を合わせる。
二機同時にトリガーを、動揺の余り引き損ねた。
音速ですれ違う二機。
その際、デミトリは未莱と目が合う。
証言とは違い、パイロットスーツとヘルメットは着けていたが、酸素マスクは確かに未着用だった。
異様に身長が低いのにも納得がいく。
デミトリは悲痛な声を上げた。

「子供なのに、どうして戦闘機に乗っているのだ!!」
「……!!」

更に乱れる操縦。
F-15M/STDの機動が一気に不安定になった。
このままでは操縦ミスで墜落しかねない。
しかし、さっきのデミトリの声を聞いたのは、未莱だけではなかった。
彼女の相棒が、片羽の妖精が今度はデミトリに対して吼えた。

「黙れぇっ!!」

この雄叫びに、ベルンハルトとデミトリだけでなく、既にグリューン隊とインディゴ隊の僚機を叩き落した、クロウ隊とエスパーダ隊も驚き、固まった。
未莱だけは、何とか持ち直し、機動を安定させた。
怒りで目が血走ったピクシーは、戦闘機動を続けながら吼え続ける。
ピクシーのF-15Cの右主翼から、怒気が溢れ出した。

「好き放題言うんじゃねえよ。相棒は訳も分からず誘拐されて、助けられはしたが帰りたくても帰れず、いつの間にか殺し合いを手伝わされて……。
普通なら心がボロボロになるような目に何度も遭ってるのに、それでも必死になって自分を保っているんだ。これ以上俺の相棒の心を揺らすな!

止めないって言うんなら、フクロウに藍鷺、お前ら二人ともここでブチ殺してやる!! 」

いつもの微かなドライさを微塵も感じさせない、ピクシーの怒号。
これには、イーグルアイですら言葉を失う。
しかし、未莱は落ち着きを取り戻す。
表情はまだ呆然としたまま。
自分の相棒がこれほどまで頼もしい男であることに気付く。
立ち直った未莱は、迷わない。
ピクシーの怒号に油断しきっている、ベルンハルトのF/A-18Cをロックオンし、もう一度AAMを発射する。

「今度は外さないわよ!」
「……ヤベエ! 避けきれねえ!」

AAMが直撃し、F/A-18Cの4枚の尾翼とエンジンが一気に吹き飛ばされる。
焦りながらも、ベルンハルトはベイアウトする。
無事に脱出したベルンハルトは、ピクシーの怒号に気をとられた事を後悔しながら、風に流されていった。
それを見届けたピクシーは、前方に捉えたデミトリのJAS-39C目掛けて、愛機を加速させ、呟く。

「すぐにミサイルが飛んでくると思ったら大間違いだぞ」

JAS-39Cの排気ノズルが一気に目の前に迫る。
しかしピクシーは躊躇うことなくアフターバーナーを作動させる。
ピクシーの意図に気付いたデミトリは、回避しようと試みたが、間に合わなかった。
そして、ピクシーのF-15Cの赤い右主翼と、デミトリのJAS-39Cの左カナード翼が超音速で接触。
F-15Cの右主翼の4分の1と、JAS-39Cの左カナード翼が砕け散る。
更にエアブレーキで距離をとり、ピクシーは照準を合わせてトリガーを引いた。

「これでも食らっていろ!」

JAS-39Cの垂直尾翼とエンジンが見る間に穴だらけになる。
そして、遂にエンジンが爆発を起こし始めた。

「こうなるとはな……!!」

デミトリも遂にベイルアウト。
残されたJAS-39Cはそのまま爆発四散した。
未莱はそれを目に焼き付けながら、無線から流れてくるイーグルアイの声に耳を傾けた。

「敵増援の全滅を確認。みんなよくやってくれた。ピクシー、悪運は今日もお前の味方だったな」
「今度は自分でぶっ壊すことになるとはな。俺自身訳が分からないぜ」

上記の右主翼を赤く塗るきっかけとなったあの事件を思い出しながら、ピクシーはただ苦笑した。
あの時は自分とあいつの不注意が原因だったが。
ピクシーは、機動が不安定になった愛機を何とか制御しつつ、未莱に話しかけた。

「よう相棒、大丈夫か?」
「今のところは大丈夫よ」

未莱の返答を聞いて、彼女が何とか立ち直ったのを確認し安堵するピクシー。
一呼吸おいてから、言葉を続ける。
それを聞く未莱は、熱を帯びたかのように顔が熱くなるのを感じた。
弾一つかすっていないF-15M/STDと、右主翼の先端が無くなったF-15Cを先頭に、第六航空師団は帰る場所へと飛んでいった。





夜、ヴァレー空軍基地内の未莱とピクシーの部屋。
二人が使うダブルベッドに、月明りがかかる。
二人そろって寝る準備をする中、未莱はなぜか生まれたままの姿だった。
それを見て固まったピクシーは、当然の如く問い質した。

「何で素っ裸なんだ、相棒?」
「妖精に恋したから。駄目?」
「大人になるまで自分を大事にしろよ……」

ピクシーは諌めるが、未莱はお構い無しだった。
赤い髪が、未莱の色気をほのかなものから、子供には不相応なものに変える。
気のせいか、室内に妙に甘い匂いが漂う。
しかし、流石に妖精は常識人だった。

「オーシアの連中にいつ盗られるか分からないもの。ここで好きな人にあげるのもアリでしょ?」
「その想いは嬉しいが……。俺はロリータコンプレックスじゃないんだ。数年間は抱き枕代わりで我慢しとけ」

未莱を抱きかかえ、ピクシーはそのままベッドにダイブ。
布団を被り、一緒に夢の世界へと沈んで行った。
ピクシーは断じてロリコンではない(彼の名誉のために一応言っておく)。
あの時、ピクシーは未莱のために、彼女を守ろうと怒りを爆発させた。
そんなピクシーに、未莱は惚れてしまったのだ。
ベッドにかかっていた月光が、二人の顔にも優しく降り注いだ。
翌朝、未莱が生まれたままの姿で起床し、寝ぼけてそのまま部屋を出ようとドアを開け、それを目撃したイーグルアイのせいでパニックが発生する。
そんな事が起きるとは露知らず、二人の寝顔をは安らぎに満ちていた。




再び2005年7月、スーデントール、ベルンハルトが勤務するバー

「戦争ってのは、お偉いのが机の上でやって、それにしたがって前線のが動いて戦う。
けどな、前線で戦う俺たちは、死んだらそこまで。
生き残るか否か、それが自然と重要になる。
少なくとも、俺の場合はそうだった」

「彼の戦いの基本は勝利と生還の両方の優先。
私の場合は、騎士道だ。
あの時、殿下は私が思わず発してしまった一言に大きく揺れた。
それは戦場では「甘さ」でしかない。
これならベイルアウトに追い込めると、不謹慎なことにそう考えた」

“しかし、ベイルアウトに追い込まれたのは、お二人でしたが”
「あそこで妖精がキレるとは思わなかったからな。
俺とデミトリはそれに気をとられ、逆にお姫様はそれのおかげで立ち直った。
で、その後俺はミサイルでドカン!
情けない話だよ、全く」

「妖精の奇策は、今も記憶に強く張り付いている。
まさか、自分の羽を叩き付けに来るとはな。
混乱している内に落とされてしまったよ」

「ところで、俺たちの次は、誰なんだ?」
“9日後、ウスティオでガルム3へのインタビューの予定ですが”
「……次の取材までまだ時間があるみたいだな。いっそのこと、ディンスマルクに行ってみたらどうだ?
赤いツバメにもインタビューした方がいいぜ」

“え?”
「『赤いツバメ』にはベルンハルトが話をつけておいてくれる」
“彼は了承してくれるのでしょうか?”
「まあ、我が友の紹介だ。一応応じるだろう」
「OK。何とか了承してくれたぜ。4日後にディンスマルク大学に来てくれだとさ」

次はガルム隊の3番機へのインタビューの予定だったが、それまでに1週間以上の間があると言った結果、ベルンハルトとデミトリが、あの『赤いツバメ』への取材許可を取り付けてくれた。
次の日、私の周囲をきな臭い輩が嗅ぎ回っていることに気付いた彼らの勧めに従い、裏をかいて国境縦断列車に乗ってディンスマルクへ向かうことにした。
デトレフ・フレイジャーとのインタビューで、私は何を知るのだろうか?
そんなことを考えながら、二人の案内で駅への近道兼抜け道となる地下の廃道路を、私は早足で歩いている。


ストルツ。
ピクシーとは意外な因縁兼腐れ縁で繋がっているエース。
ふとしたことから、サイファーが公王の孫だと知り、彼は動き始めた。
そしてそれがもたらすものは何か?
次回、「円卓~サイファー対ストルツ~」
20年前、ベルカ民主自由党が動いたことで、彼女の運命は狂い始めた。
彼女はそれを自力で修正するために戦う。

theme : 二次創作
genre : 小説・文学

2008-07-23

第1作戦「凍空の猟犬~鬼神、覚醒~」

マッシーヴァー・ゴリアス
ウスティオ共和国空軍総本部中将。
ベルカ戦争当時、ヴァレー空軍基地の司令で、その頃の階級は大佐。
現在、ヴァレー空軍基地は、隣接する登山者用のホテルによる見学ツアーが実施されるなど、施設の大部分が開放されている。
彼はサイファーの元上官で、彼女の身元引受人だった。
当時のオーシア政府の横暴を知る人物。
サイファーがオーシアの操り人形にならなかったのは彼の功績である。

2005年7月、ゴリアス中将の自宅。

「アレは、1月の終わりごろだった。甥のアルバイト先のペンションに泊まるために、休暇をとって、ベルカとの国境沿いにある山岳の町に行ったのだ。
スキー客を見ながら、酒を飲んでいたのだが、そこに銃声が響いてな、何事かと思ったら地元の警察と、旅行バッグを担いだ怪しい連中が撃ち合っていたんだ。
余程慌てておったのか、怪しい連中は警察の追撃を振り切って、旅行バッグを置き忘れたまま逃げおおせた。
年甲斐もなくバッグの中身が気になったので開けてみたら……」
“そのバッグの中に、後のサイファーがいた、と?”
「そうだ。俺も警察もたまげたよ。旅行バッグの中に、まだ小さい子供が入っていたんだ」
“それから何故、ヴァレー空軍基地で保護することに?”
「地元の警察署で身元を聞いたんだが、腰が抜けるかと思ったね。
何せベルカ民主自由党からの政治圧力に嫌気が差して日本に亡命、帰化したヴェールヴィント公子の一人娘だったからな」
“ええ!?”
「ここだけの話だが、彼女の名前は有馬未莱、ベルカ名はミラーフリスト・アリマ・フォン・シュヴァンシュタイン・ベルカだ」
“マリーフリスト……、確か8年前に自分から当時のベルカ政府に名乗り出て騒動を巻き起こした、トラブル・プリンセスじゃないですか!”
「そうだ。彼女は、自分の名前に両親の名前、そして今言ったベルカ名を教えてくれた。
そして、自分を誘拐しようとしたのが『ベルカ民主自由党』の手の者であることも教えてくれた」
“何故彼女は自分を誘拐したのが、ベルカ民主自由党の手の者だと知っていたのでしょうか?”
「日本で拉致された際、向こうの方がわざわざ教えてくれた、と言っておったな。それからが大変だった。
このまま日本に返しても、また拉致されるんじゃないかと思い、軍にこの事を報告した。
軍の方も政府に報告したみたいでな。すぐに政府の方から、“この件は内密に。なお、公女はそちらに預けます”と、返答が返ってきた。
で、なし崩し的にヴァレー空軍基地で保護することが決まったんだ」
“しかし、まだ子供だったのによく実戦に参加させましたね?”
「……」

第1作戦「凍空の猟犬~鬼神、覚醒~」

1995年、4月1日、ウスティオ共和国北東部、ヴァレー空軍基地。
一人の幼い少女と、一人の中年間近の青年が、寒空を見つめていた。

「ピクシー、今、四月だよね?」
「仕方ないさ、相棒。ここはオーシアの更に北の国の、北部の山にある基地だ。夏は最高に過ごしやすいけどな」
「お花見したかったなー」
「贅沢言うな。第一、日本の固有行事がウスティオにあるわけないだろ。相棒、そろそろミーティングの時間だ、行くぞ」
「うん」


ブリーフィングルーム。
傭兵が集められているとはいえ、流石に劣勢に立たされているせいかそれほど集まってはいないようだ。

「少ないね」
「無理もないさ。劣勢な方につく傭兵なんて、金に目が眩んだやつか、単なる物好きか……」
「私たちみたいに優勢な方に恨みがあるか、の何れか」
「そうだ」

二人の私語がばっちり聞こえたのか、この基地の指令が釘を刺した。

「未莱、ピクシー、そろそろブリーフィングが始まる。私語は慎め」
「「了解」」

ブリーフィング開始。

「現在、この基地に敵爆撃機部隊が接近しているとの情報が入った。向こうは我々を甘く見ているのか、爆撃機、護衛機共に一世代前のものばかりだ。バカにしている。」

司令は怒ったように言い切ったが、すぐにピクシーに諌められた。

「大佐殿、個人的な意見はいいから続きを」
「すまん。第6航空師団は全機出撃し、敵爆撃機部隊を殲滅せよ。以上、解散」

正規兵はキチンと起立して敬礼したが、傭兵たちは我先にと格納庫へ向かった。
無論、未莱とピクシーも例外ではなかった。

「急ぐぞ相棒。時間が惜しい」
「はいはい」


滑走路。
傭兵たちの乗る機体が次々と滑走路に入り、離陸していった。
そして管制塔から、未莱とピクシーの出番が来たことを知らせる声が飛んできた。

「ガルム隊、滑走路に進入し、離陸せよ」
「ガルム隊?」
「お前とピクシーの隊の名前だ。後、ガルム1はお前だからな、サイファー。ピクシーの手綱をちゃんと引いておけよ」
「私が隊長!?」

乗機のコックピットで素っ頓狂な声をあげる未莱に、通信でピクシーが声をかけた。

「混乱するのは仕事が終わってからにしろ、相棒」
「う、うん」

釈然としないままの未莱を乗せたF-15S/MTDと、やる気満々のピクシーが乗ったF-15Cが滑走路を走り、離陸した。

「ガルム隊、離陸! クロウ隊、続けて滑走路に進入し、離陸するように。しかし、サイファーの奴、アジャイル・イーグルなんて何処で調達したんだ?」

直後、管制塔で何かを殴る音が通信で中継され、基地司令の声が代わりに聞こえてきた。

「こちら基地司令部。全機、迎撃態勢を取れ。それと、管制官の二の舞になりたくなかったら、ガルム1への乗機に関する質問は任務完了後にしろ」
「報酬ははずんでくれよ、大佐殿」
「お互いが無事だった場合のみ用意しよう、ピクシー」

基地司令に切り返されたが、ピクシーは予測していたようだ。

「だと思った。お財布握り締めて待ってろよ!」
「ピクシー、急ぐわよ」
「了解、相棒!」

ガルム隊の二機のイーグルが、敵爆撃機部隊目掛けて一気に加速していった。


作戦空域。
完全に舐めてかかっているのか、ベルカの爆撃機部隊はだらけていた。

「この任務が終わったら、PXのワインが待っているぞ」
「50年物のアレか? こんな楽な任務で?」
「イイじゃないか、どうせ目標の基地を潰せば、ウスティオを完全に掌握できるんだ」

爆撃機のパイロットと、護衛機のパイロットの嬉々とした会話は、空中管制機の声で、突如として終わりを告げた。

「各機、敵迎撃機群が接近中! 繰り返す、敵迎撃機群が接近中!」


一方のガルム隊。
だらけた敵の様子に呆れたピクシーの一言に、未莱ことサイファーが即行で返した

「敵さん、だらけきっているな」
「仕方ないわよ、ピクシーたちみたいな腕利きたちがウスティオ側につくなんて考えてもいなかったみたいだし」

サイファーのその一言に納得してしまったのか、ピクシーは乾いた笑い声を出すことで肯定した。

「敵さんも運がないな。よりによって、この片翼の妖精を反則負けに追い込んだ相棒のデビュー戦の生贄になるとは」
「世の中、本当に一寸先は闇ね」

サイファーはその一言と同時に、正面の敵機に照準を合わせ、機銃のトリガーを引いた。
F-15S/MTDの機銃が火を吹き、護衛機の一機であるF-4Eの尾翼を吹き飛ばした。

「アジャイル・イーグルだと!? ウスティオの連中、何処から調達して来た!!」
「シュライヴァー3、イジェークト!」
「うわ、あっという間に一機落としやがった! しかもよく見たら片羽の妖精までいるぞ!!」

爆撃機の一機の乗員と、尾翼を吹き飛ばされたF-4Eのパイロットの悲鳴が聞こえ、F-4Eのパイロットがベイルアウトした。

「流石、相棒。すれ違いざまに敵機の尾翼を吹き飛ばしやがった」

サイファーの腕に感心しながらも、ピクシーも敵爆撃機の右主翼をエンジンごとなぎ払い、更にロックオンしてAAMを撃ち込んだ。

「主翼をやられ……」
「悪く思うなよ。俺も相棒も、そちら側には恨みがあってね」

爆撃機の一機が爆発し、その燐光を浴びた、ピクシーのF-15Cの赤い右主翼は、まるで血の様に更に強烈な色合いになっていた。

「……綺麗な色合い。私の血とは大違い
「相棒、何か言ったか?」
「あなたのイーグルの右主翼が、何時もより綺麗に見えただけ」
「……そうか?」
「そうよ。ガルム1、FOX2」

サイファーは感情が読み取れないような冷たい声でそう言ってから、AAMを敵爆撃機目掛けて2本発射。
胴体下部にAAMが直撃した爆撃機は、数秒後に爆発四散。
サイファーは、ピクシーや基地の面子には絶対に見せないような冷めた表情で、その一部始終を見ていた。

「こちら管制塔、敵機の全滅を確認。作戦終了。全機帰還せよ。なお、スコア・トップはガルム隊。さらにその8割以上がサイファーのスコアだ」

管制官の一言に、通信越しに僚機たちからの歓声が飛んだ。
しかし、当のサイファーはどこか釈然としていなかった。

「こんなガキ一人に手柄の大半を盗られて悔しくないのかしら?」
「相棒、お前が言うと、無駄に嫌みったらしく聞こえるから言うな」


ヴァレー基地、食堂。
食堂内はお祭り騒ぎとなっていた。
まあ、向こうが慢心していたとはいえ、あれだけの圧勝じゃねえ。

「俺たちの大勝利だったな、相棒」
「まあね。ほんと、勝ち戦の後のお酒っていつもより美味しいわね」
「そうだ・・・・・・な?」

サイファーこと未莱のその一言に反応したピクシーが、彼女の方を向くと、ビンに入ったままのブランデーをラッパ&一気飲みする未莱の姿が視界に入った。
どう見ても未成年飲酒です、本当にありがとうございました。

「って、おい! お前何やってんだ!」
「晩酌。見れば分かるでしょ?」
「アホか! お前まだ子供だろうが!」
「へっ」
「うわ、何だよ!? その「憐れんであげる」って言わんばかりの嫌な目付きと薄ら笑い!」
「ウスティオじゃ、未成年の飲酒と喫煙は規制されてないのよ」
「おい、ウソならもうちょっとマシなのを……」
「ウソだと思うならゴリアスさんにお聞き」

自信満々に言い切る未莱の顔を見て、ピクシーは意を決して司令に聞くことにした。
約1分後、ピクシーが戻ってきた。

「どうなってんだよ、この国は……」
「ベルカ周辺から独立した国の中で、この国だけ自力のみで独立したから、色々と抜けてる所があるのよ」


再び、2005年、ゴリアス中将の自宅。

“まだ10歳にもなっていない内から……。しかも規制する法律がないとは”
「この国は、あの子が生まれた後に出来た国だ。更に、ベルカから独立した国の中で、唯一オーシアの手を借りなかった。法律に限らず、あちこちに穴があって当然だった」
“……現在は?”
「無論、規制する法律は終戦後にちゃんと制定された」
“それはよかった……”
「飲まないとやっていられなかったのだよ、あの子の場合」
“……”
「これに関しては、ピクシーに聞いた方がいいだろう。一応、連絡してみる。もし、向こうが了承したら連絡しよう」
“ありがとうございます”

こうして、鬼神に一歩近づくことが出来た。
しかし、事前に集めた与太話の内、出生に関するもの『だけ』が事実だったとは。
それにしても、何故当時のオーシア政府は彼女を自分たちの戦力として組み込んだのだろうか?
やはり、ベルカ民主自由党と同じことを考えていたのだろう……。
次の目的地は……、旧南ベルカ(とてもじゃないが、北オーシア州と言う気には未だになれない)のスーデントール。
ベルンハルト・シュミッドとデミトリ・ハインリッヒにインタビューだ。
さて、邪魔が入らないうちに空港に急がないと。

ラオディとバローン。
片や厄介者部隊の隊長、片や模範的部隊の隊長。
ふとしたことから固い友情を築いたこの二人。
サイファーの素性と、祖国を動かす者の醜さを知った時の二人の胸中やいかに。
次回、「171号線奪還~荒くれ部隊と騎士道部隊~」。
当時のサイファーの心は、酒が波打つ孤独の海。
誰も彼女の心を真に理解することは、出来ない。

theme : 二次創作
genre : 小説・文学

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